社内教育とスクリーニング
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企業や雇用主は、従業員に対して仕事に関する何らかの教育を行う。
倉庫業ならモノの並べ方・積み方などを最初に教育し、次にフォークリフトなどの運転や資格を取らせたりするだろう。
IT関連の企業なら、一般従業員には初級シスアド・開発部門の新入社員には基本情報技術者(旧第二種情報処理技術者)の資格が取れるようにカリキュラムを組んで教育を行うことだろう。
だがしかし、そういった人的資本に対する投資は、回収できるかどうか不確定である。
そしてそういう投資を施した従業員が辞めるとなると、企業や雇用主は損をすることになる。
たとえばベテランが辞職すれば、新しい従業員をベテランの域まで教育するためにコストがかかる。
すなわち従業員にどんどん転職されてしまうとコストが増大するのである。
だから企業は有能かつ転職する確率の小さい従業員を雇おうとするのだ。
しかし、それは仕事を探している人間側の持つ「私的情報」だから、企業には誰がそう言うタイプの人間であるか分からない。
それを見分けるスクリーニングの方法がつまり、「若い人間には相場より少し安い賃金しか支払わず、ある一定の職歴を達成した者にだけ高い賃金を支払う」という方法なのである。
気短な、転職の恐れのある人間は、安めの賃金には耐えられない。
そう言うタイプの人間にとっては、将来の高賃金などまるで魅力的ではないから、そう言う人間は転職を「自己選択self-selection」するだろう。
一方長く勤務するタイプの労働者には、現在の安めの賃金など気にならない。
転職するにも何らかのコストがかかるし、高い賃金を求めて右往左往するのも面倒である。
そして現在は低賃金であっても将来高賃金を受け取ることができるというシステムがあれば、さらに転職を思いとどまるだろう。
「能力に合った高賃金を今受け取る」か「今は能力に見合わない低賃金だ。
しかし、将来は能力以上の高賃金を受け取ることができる」か、、、 そういう選択肢を従業員に与えることによって、企業は従業員の私的情報を開示させ、情報の非対称を解消しようとするのではないか? というわけである。
※ もちろん新入社員に対する低賃金は、「教育コストを賃金から相殺しているのだ」と考えることもできるが、それではそれでは高齢者に対する高賃金が説明できない。
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業績給とスクリーニング
さて最後に、ある企業内の有能な従業員に外部の別の企業でもっと良い条件で雇用される可能性や機会がある場合を考えてみよう。
こういうタイプの従業員には、様々なタイプの雇用契約のメニューを提示し、選択させるという方策も可能であろう。
自分で仕事と賃金の組み合わせを選べ、その業績によって賃金を得ることができるものとすれば、従業員は自分に合った職種や仕事量・賃金率を選べることになる。
だから、生産性の高い労働者を企業に引き留め、また生産性の低い労働者を企業に残りにくくすることができるかもしれない。
もちろんそれは、能力や業績と賃金が上手く対応するような組み合わせを提示することができなければならないという条件付きだ。
しかし、もし本当に上手く労働者がどれだけ働いているかをモニターできるという場合であれば、業績給制は生産性の高い労働者を集める強いインセンティブになるだろうし、スクリーニングによる効果をさらに強化することになるだろう。
今週の・・・
「情報の非対称が存在する場合、その非対称を解消する方向に努力が行われ、売り手側が何らかの行動を起こして解消しようとするのがシグナリング・買い手側が何らかの行動を起こして解消しようとするのがスクリーニング」、、、というのはボクなりのまとめなので、もしかしたら間違っているかも知れません。
悪しからず。