カリフォルニアの水利権
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カリフォルニアと言えば大農業地帯である。
日本の米作農家を脅かしているカリフォルニア米は、もちろんカリフォルニアで造っているのだ。
しかし、実はカリフォルニアの殆どは砂漠なのである。
そんなカリフォルニアでなぜ、水資源をとんでもなく消費する米を作ることができるのかと言えば、一つには冬の間北部に山ほど降る雪の雪解け水をダムでせき止めて使っているからである。
そしてさらにその水を一単位あたり3.5ドル~15ドルという低価格で利用できるからである。
これは非農用水の価格65ドルと比べてはるかに安い。
だからカリフォルニア州は砂漠の州であるにもかかわらず、農家は大量の用水を必要とする米や綿を安く大量に作ることができる。
同じ州の太平洋に面した街では同じ一単位の水を得るために、三千ドルも費用がかかる「海水淡水化プラント」まで建設しているというのに、農民が利用している格安の水資源はその街まで届かない。
と言うのもカリフォルニアの水資源の利用権(水利権)は農民が持っていて、しかもそれは「売買不可能」だからなのである。
農民の持つ水利権は、利用する水量の「割り当て」であり、それ以外の目的のためには用いてはならないという約束があり、「使うか、それとも権利を放棄するか」という二者択一なのである。
だから農家はたとえ水が余ってもその一部を他の者に譲ったり、或いは他の者から譲り受けたりすることができない。
そして割り当てられた水量は、毎年必ず消化せねばならない。
と言うのもそうしないと翌年からの割り当て水量が減らされてしまうからである。
たとえば栽培する作物を綿から果樹に切り替えると必要な用水量は減る。
が、そうすると次の年からの割り当て量は下げられてしまうのだ。
つまりここでは割り当てが前年度実績によって定められ、「ラチェット効果」が働いてしまうから、山一つ隔てた太平洋側の街で水不足になっても、水は農地でムダにばらまかれるわけである。
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ここでもし農民が自分の持つ水利権(割当量)をいくつかに分割して、譲渡できるとしよう。
そうすればコースの定理が示すように、割当量より少ない用水量で農業を行っている者は水を不足している自治体に売ることになろう。
農家は必要なだけ水を使うようになるし、水不足で困っている自治体も一単位当たり三千ドルもの費用がかかる海水淡水化プラントなど使わなくても済むようになる。
だがしかし、そういう制度障壁を崩すと農家は安い水資源を使えなくなる可能性が高い。
なぜなら自治体や都市住民は農業生産の重要性を高く評価し、そのために大量の税金を投じてダムを作りパイプラインを作り配水システムを建設してきているのである。
その結果安い費用で農家が安く水を手に入れられるのに、それをまた高い値段で自治体や都市住民に転売できることにするというのは納税者に対する「侮辱」である(とある下院議員は言っている)。
だからそういう移転を許せば、農家はこれまでよりも高い価格の水資源を利用せねばならず、生活にも困ることになる。
農家は制度によって補償されている巨大な利権(レント)を簡単には手放さないだろう。
取引不可能な財産権はこのような非効率を生み、そして制度改革へのインセンティブを作り出す。
だが制度改革には多大なインフルエンス・コストがかかるし、また様々な利害関係を乗り越えて合意に達するのは非常に困難な事である。
この障害の大きさがこの問題に対する効率性原理の適用を困難にし、非効率な取り決めを存続させる原因になっている。