かつての日本企業のありよう
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かつて、日本の大企業における人的資源政策の大きな特徴は、
- 1)終身雇用。
- 2)技術を持たない若い人間を雇用する。
ということであった。
だがこの現象は日本にだけ特異なものではない。
ただ日本の大企業では、他の国よりもよりハッキリした形で行われてきた、というだけである。
日本の大企業は中途採用で技術者を採用することがなく、終身雇用を意識した従業員を途中で解雇することがなかった。
このことは「離職率を極端に下げること」を可能にした。
なぜなら大企業が若年層の労働者しか雇わないので、大企業に就職した従業員はそこを辞めると賃金の安い中小企業で働くしかなかったからである。
そして世間的に名の通った大企業を辞め、名も知れぬ企業で働くことは家族や周辺の住民に対しても自分の価値をさげることになったからである。
だから大企業の従業員は、そういう有形無形の高額の準レントを放棄するインセンティブを持たなかった。
そしてまたそれは雇用に対する外部機会(よりよい仕事に就く機会)が存在しないことであったから、大企業の雇主は従業員にそれほど高い賃金を支払わなくてもすむということであった。
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終身雇用の定着過程
日本の大企業に雇用されている人間はそういうわけで、かなり大きな準レント(転職して受け取る賃金より何割か高い賃金)を受け取っていた。
労働者一人一人が同程度の業績をあげたとしても、大企業で働くのと中小企業で働くのとでは、同じ事をやっても規模が大きく違うから、その差が「仕事の業績分より多い賃金支払い」になったわけである。
しかし大企業だってそんなに高額の準レントをただ支払っておくわけにもいかない。
安く雇用ができるならそのほうが望ましい。
だから当たり前に考えれば、企業の経営者は割高の労働者を解雇して、市場から割安の賃金で働いてくれる労働者を雇おうとするはずなのだ。
しかし、日本の大企業というのは実は戦後の高度経済成長期に大きく発展した企業が多かったのである。
東芝や松下は戦前からあったがその頃はまだ小さな工場であった。
ソニーやカシオなどは戦後の町工場からスタートした会社であった。
この時代は「とんでもない技術者不足の時代」で、常に熟練工の需要は供給量を大きく上回っていた。
技術を持った理科系の大学生も不足していたし、専門の技術者の不足も著しかった。
だからこそ企業は高すぎる賃金水準であっても、従業員を解雇せずに確保する方を選んだ。
企業特殊的な技術を持った人的資源は自社で養成しなければ、他から雇うことは殆ど不可能だから、コストがかかってもそういう投資を行った。
大卒の理科系の人間を積極的にスカウトするだけでなく、高校や専門学校を経営し、たとえば電力会社などは電気系の技術者を養成するために専門技術を習得する学校(高校相当)を作り、給料(手当)を支給しながら企業特殊的な技術の教育を行うと言うようなことをやった(トヨタ学園など)。
そういうとんでもない大投資が可能だったというのは、この時代が高度経済成長期であり、需要は常に拡大し様々な技術や機械の導入による生産性向上や規模の経済性もあって商品を作れば作るだけ売ることができたからである。
そうしたことが長く続いたからこそ大企業は自社の従業員の解雇を避けるようになり、最初に述べた1)終身雇用。
2)技術を持たない若い人間を雇用する。
という特徴が定着したワケである。