所有と経営のインセンティブ
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企業の資本構造の有り様は、二組の利害対立に影響を及ぼす。
一つは「経営者と株主との対立」である。
たとえば自社株を100%所有するオーナー経営者は原則的に、会社の費用で高級自家用車を乗り回し飛行機のファーストクラスで旅行をしようと構わない。
また豪華なパーティを開いて金持ちぶりをアピールするのも自由だし、採算の合いそうにないゴルフ場建設に投資するのも自由である。
なぜならその企業の出資者はその経営者であり、そこから得られる残余利益(必要経費や社員の厚生費などを除いた残りの利益)や便益は基本的に100%その経営者が受ける権利を持っているからである。
だからもしそのオーナー経営者が、それらの「ゼイタク行為」を自分の経営環境に必要だと思えばそうすればよいし、そう思わなければそうしなければ良いだけである。
言ってみればそれは結局「自分の金でそうしている」のだし、その結果は結局その経営者の損得に跳ね返るわけだから、原則的には何も問題はない。
社長の勤労インセンティブに関しても、モラル・ハザードに関しても、根本的には問題は起こらない。
「所有」というのは、それに対して十分な投資を可能にする。
だから、努力するインセンティブも所有しているだけで充分生じるはずだからである。
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所有しないものに対する投資、するものに対する投資
「インセンティブで考える」の方でも昔書きましたが、ムラ全体で土地を所有して耕作していたときには、何年かしたら耕作地の配置転換(割り替えと言う)があるので、自分の耕していた土地にはムラのメンバーとしての最低限の投資しか行えなかった。
それは自分の耕している土地に大きな投資をしても、後年その利益は他人が受け取ることになってしまい回収できない可能性が高いからで、だからさほど土地をしっかり耕さず、その結果日本の農業は「浅耕・少肥・排水不良」という生産性の低い農業を続けてきた。
しかし明治維新後の「地租改正」で土地の所有者が個人になり、その所有権が確定したことで、地主や農民に土地を整備したり肥沃に保ったりというインセンティブが生じ、農業の生産性を上げることが可能になった。
ソビエトのコルホーズや中国の人民公社の例を持ち出すまでもなく、「所有」というのはそういうインセンティブを持つ。
だから株式を100%所有しているオーナー経営者には、その企業の生産性を高め利益を挙げるインセンティブが常にあるわけである。
だから経営者がどう判断しようと、それは原則的にはその企業の利益を損なわない範囲での判断だと見なしても良い、、、ということになる。
株式を所有しない経営者行動
だがしかし、株式の半分だけ所有している経営者でもたった5%しか株式を所有していない社長でも、そういう贅沢な待遇で経営したり、派手な投資をすることは可能である。
そして持ち株比率の多い少ないにかかわらず、その経営者の受ける便益は、自社株100%所有のオーナーと比べて特に遜色はない。
高級自動車を乗り回す快適さやファーストクラスで旅行する豪華さには何ら変化がないし、豪華なパーティやゴルフ場建設による示威行為の展示の効果も十分にある。
ただひとつ異なることは、経営者のそういう行為がその企業の株主の利益と合致しない、、、ということである。
5%所有の経営者は100%所有の経営者と同じだけの便益を受け取ることができるが、負担する費用やリスクは5%だけである。
5%の負担だけで100%所有のオーナー経営者と同様の便益(あるいはそれ以上の便益)を受け取ることができるのだから、経営者は企業の総価値を最大化するインセンティブを持たなくとも良い、ということになる。
つまりこういう経営者は企業内の他の者に対する業績の監視や、コストを抑制し収入を増やすという活動にはあまり励まず、その企業の資本を蚕食する。
そういうわけだからそこに「経営者と株主の利害の対立」が発生するわけである。