リスクを冒すための動機付け
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リスク中立的とは「リスクを許容する覚悟があり、リスクを恐れない」ということである。
大企業ではリスクが株主に分散されて経営者はリスクを負わないで済む。
だから、経営者や管理職は「リスク中立的」になるはずだ、と考えられる。
だから株式を広く公開している企業は「リスク中立的」で、現にアメリカの大企業ではリスクをモノともせず投資をし、結局失敗している例が山ほどある。
たとえば1970年代末から1980年代始めにアメリカの石油企業は東海岸沖のボルチモア・キャニオンの採掘権を何十億ドルもかけて連邦政府から購入し、さらに何億ドルもかけて採掘したが、結局の所まったく何にもでなかった。
また1980年代の初めには、未だ市場規模もハッキリしていないバイオテクノロジー関連の研究に極めて多額の投資が行われ、その結果わずかな数の会社以外は全て倒産したりバイテクから撤退したりしてしまった。
数千万ドルの利益しかあげていない製薬会社の買収に、数十億ドルも投資したというのに、結局ダメ、、という風な話もあった。
またロッキード社とボーイング社などの企業連合は、十億ドルを投資してF22戦闘機を開発して国防省への入札で成功したが、一方ダグラス社は同じ程度の金額を投資したにもかかわらず、一銭にもならなかった。
アメリカ企業にはこうした例がたくさんあり、これがつまり「リスク中立的」であるということでなのである。
ところがそう言う例がある一方で、そういうリスクを冒して新しい事業を始めようとしない企業や経営者もかなり多い。
アメリカにはハイリスクをモノともせずにハイリターンを求めている株主がたくさんいて、そういったリスキーな投資を望んでいる場合も多いというのに、経営者はそういうリスキーな投資を選ばず、今現在の業務に留まろうとする人間も多い。
株主がそうして経営者に大きな勝負をしてもらおうと望んでいるというのに、企業の管理者はなぜそんなふうに「リスク回避的」になるのか? 株主が分散してリスクを負っているというのに、経営者が臆病で企業がじり貧になるのではどうしようもない。
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管理者の投資決定と、人的資本リスク
企業の管理者が投資決定においてリスク回避的になる理由の一つは、彼らの給与がインセンティブ契約によって投資結果と密接にリンクされているということが考えられる。
だがしかし、インセンティブ契約を行っていない企業や管理職も多いわけだから、この説明はもう一つ説得力がない。
管理者がリスクの高い投資に対する決定をためらう原因は、恐らくそれが自分の人的資本の評価につながるからであろう。
「株主はリスク中立的でリスクを負う」とは言っても、それは部分的なモノであるし、リスクが高い企業一社にだけ投資を行っているわけではない。
ABCDEF、、、と数社に投資した中で、どれか一つか二つの企業が成功すればそれでOKである。
だが企業の管理者がリスキーな投資を決定する場合、彼(或いは彼女)は管理者としての自分の人的資本をリスクにさらすことになる。
事業が上手くいくか失敗するかは将来の自分の価値を高めたりおとしめたりする。
事業に失敗すれば昇進や転職も望みがない。
だからためらう。
だがそれでは企業は生き残れない。
何とかリスクの高い仕事にも挑戦して、企業を運営していかねばならない。
そのために、経営者や管理者に対してははまた、特別なインセンティブ報酬を考えねばならない。