コーディネーションの重要性
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分業と専門化
我々は、自ら必要な財やサービスを全て自分で生産するよりも、専門化された生産組織によって財やサービスを生産し、それを別の専門化された生産組織によって生産された別の財やサービスと交換する方が、より安く、よりバラエティに富んだ生産を行えることを知っている。
そしてそれは専門化された生産組織の内部でも同様で、アダム・スミスの「諸国民の富」においても、ピン工場の分業による仕事の専門化の恩恵が紹介されている。
もちろん工業の分業は何も産業革命の専売特許ではない。
以前からも世界各地で広く行われてきたものである。
たとえば陶器で有名な中国の景徳鎮(けいとくちん)で作った陶器には、銘がない。
陶器には大抵それを作った職人の銘が入れられるモノであるが、景徳鎮ではすでに分業が行われ各工程を別々の職人が担当して生産していたので、「誰が造った」という印である銘が入れられなかったのだという話である。
製品を制作するために他種類の部品が必要であったり、或いはたくさんの工程が必要であったりする場合にはよく、こういう分業が行われる。
さてでは分業のメリットとは何か? と尋ねられると、第一に分業することによって各部品を制作する技術が専門化・高度化し、各工程での職人のスキル・アップが図れるということがあげられる。
すなわち一人の職人が自分一人で車を作り上げるには、エンジンからシャシーからタイヤから車体から塗装から、全ての車用の部品を製造する知識と資本(土地や機械)と組立技術を持たねばならない。
が、たとえば十人で各部品の製造や組み立て工程を分担して車を作れば、知識を得る時間も技術を習得する時間も10分の一で済む。
生産設備も基本的に同じモノを使うわけであるし、たくさん作れば生産技術も上がって生産性も向上する。
だから、無駄も減る。
おまけに各部門で不良品を排除することができる。
だから、組上がった製品の品質も安定させ安いし、また問題のある部品や工程は取り替えることが可能である。
さらに分業すれば一人では到底できないような、巨大な道路や橋や建築や、ジェット機・宇宙ロケットといった類のものまで作ることができる。
だから、分業することで人類は大きな利益を得ているのである。
だがしかし、分業には大きな問題がある。
それがつまりこのマレニヨムの第一回でも述べた「コーディネーション」と「動機付け」の問題である。
コーディネーションの重要性
たとえば自動車を生産しようと思っただけで、勝手に効率よい配分で資源(リソース:生産に必要な材料や機械、労働力など)が集まってくるわけではない。
車を設計する能力のある技師を集め、車を生産する能力のある労働者を雇い、車を売る能力のあるセールスマンを動かして、何とか効率よく生産し、販売できるようにそれらの組み合わせを考えねばならない。
車を10台作るのに設計技師は100人も要らないだろう。
車を10台作るのに千本もシャフトは要らないだろう。
10台しか売れないのに、100台も車を作っても仕方ないだろう。
10台しか売れないのに、莫大な負債を抱えても仕方ないだろう。
だからどういう人材をそれぞれ何人づつ集め、彼らにどのくらいの賃金を支払い、どういう風に人材を配置すべきか。
そしてどういう部品をそれぞれどのくらいの価格でいくつ調達し、どの部品を企業内部で生産し、どの部品を外部市場から調達するべきか。
さらにどのような需給予測を立てどのような生産計画と販売計画を立てるか。
その計画のための部品調達や人員調達を、必要なときに必要なだけどう集めるか。
またその生産のために必要な資金は、どのように調達すればよいか。
自己資本(エクイティ)で集めるべきかそれとも借入金(負債)で賄うべきか。
このような様々な選択がつまり「コーディネーション」と「動機付け」の問題であり、この問題をどうこなすかで組織や企業の業績が左右され、そして時にはその組織や企業の命運を握る。
「コーディネーション」と「動機付け」をどのようにするか? というのが実はこの「組織の経済学」の全ての章で形を変えて取り上げられるテーマである。
(つづく)
今日のまとめ
まとめ 質の異なるモノをどういう風に組み合わせるか。
多種多様な分業によって成り立つ現代社会において、これは最重要の問題なのだ。
組織の経済学は、だから面白い。
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