不完全なコミットメント問題
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不完全なコミットメント問題
比較的簡単な契約ですら、いろいろな問題や争いを引き起こすことがある。
しかし不完全なコミットメント、たとえば労働者や取引相手に契約通りの条件で仕事をさせたり品質水準や納期を守らせることができない事が取引上大きなインパクトをあたえる。
これは、「投資便益の発生が、長期間にわたる大規模で多額の投資を必要とする場合」すなわち「大金を投じて何ヶ月も何年もかけて準備をした後でないと、利益がでない」といったような場合のことである。
このような場合、長期に渡る大規模な投資が必要な事業に投資するには、勇気がいる。
なぜなら散々投資を行った後、労働者がストライキを行って大幅な賃上げを要求したり、生産する商品の生産に必要な原材料や電力などの供給者が、投入財の価格を当初よりはるかに高い価格に引き上げたり、、、ということが起こりかねないからだ。
そうであれば、そんな事業に投資しても損してしまうからである。
不完全なコミットメントが起こる可能性が高い場合、その投資は投資家から避けられてしまう(すなわち投資されなくなる)。
これを「不完全なコミットメント問題」という。
特殊的資産への投資
そして「特殊的資産」への投資はさらに問題の度合いが高い。
「特殊的資産」とは、ある特殊な状況や関係のもとでのみ価値が極めて高くなる資産のことであり、それらの条件が全て揃わないと殆ど儲けが出なくなってしまうと言う場合である。
特殊的資産の重要な例として「共同特化した特殊資産(コ・スペシャライズド・アセット)」があるが、たとえば炭坑と石炭火力発電所がほぼ隣接されているとする。
火力発電所は、すぐ近くの炭坑から掘り出された石炭で電力を起こして市場に供給する。
そして炭坑は火力発電所で起こされた電力を使って石炭を掘り出し、市場に石炭を供給しているとする。
このような場合、発電所は投入財である石炭の輸送コストを安く上げることができる。
だから、それによって発電された電力の価格をその分引き下げることができ、市場競争力を持つ(電力価格が下がっても利益がでる)。
一方炭坑は、石炭発掘を隣接する発電所の安い電力を使って行うことができる。
だから、その分生産する石炭の価格を引き下げることが可能になり、やはり市場競争力を持つことになる。
炭坑も電力会社もとりあえずは万々歳である。
だがこの炭坑か発電所かのいずれかが閉鎖されてしまうと、この利点は無くなってしまう。
またこれらの資産の持ち主が異なると、片方がもう一方の資産所有者の行動に影響を受ける。
だから、どちらか有利な立場の企業が自らの生産物の売渡価格を引き上げると、やや条件の不利な企業は利益を失ってしまう。
こういうのを特に「共同特化された資産の問題」という。
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ホールドアップ問題とその回避策
契約当事者が、投資がサンクとなった後に不利な条件を押しつけられたり、他所の行動による投資価値の下落を恐れるという問題を「ホールドアップ問題」と言う。
完備契約では、将来に起こる諸事情に対しての約束が完備されているので、ホールドアップ問題は起こりようがない。
またホールドアップ問題が生じても、代わりのサプライヤーがいくらでもいるような場合も 、投入財の買い付け先を他の者に乗り換えればいいだけだから大きな問題にはならない。
ホールドアップ問題は、「不完全な契約と資産の特殊性の共存」に核心があるのである。
このような問題に関する懸念は非効率性を生む。
というのも投資によって立場が悪くなることを恐れて、たとえ効率的であってもそういう投資が行われなくなるからである。
こうして共同特化された資産への投資は、機会主義の恐れによって、投資インセンティブ(投資に対する意欲)が失われてしまうのだ。
だからこのような事業へ投資を行わせるためには、他人にその行動を起こさせるような何らかのコミットメントが必要になってくる。
完備契約が現実には取り交わせない事に対する対応としてまず、「関係的契約」と「暗黙の契約」があった。
このような契約法は契約当事者の「期待」形成に役立ち、予期せぬ出来事の発生に対処するための「決定プロセス」を確立することによって、詳細な契約内容を書き下す困難も回避できた。
一方共同特化された資産への投資が問題になっている場合には、その共同特化された資産を同一の経済主体が所有するくらいしかホールドアップ問題の発生は防げない。
が、それでも実際には様々な問題や障害が存在する。
契約以外の手段によってコミットメント実現を達成できるモノとは「評判」と「信頼」である。