組織内部の労働市場
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日本の終身雇用制度ほどハッキリしているわけではないが、先進諸国では多くの労働者が長年に渡って同じ会社や企業に勤めている。
アメリカの労働者は平均して同じ職場に八年間勤めているし、また二十年以上同じ職場で働いている人間も四分の一以上いる。
実際勤続十五年以上の労働者の割合は、実は日本よりアメリカの方が高い。
また勤続二十年以上の労働者の割合を比べてみると、アメリカよりイギリスの方が高いというデータもある。
このような労働者は、一つの企業内で昇給したり昇進したりということに大きな価値観をもっていると考えられるが、長期雇用している雇用主の方も多かれ少なかれ労働者に長期に渡って仕事をしてもらいたいと考えている。
このような場合に「内部労働市場」が生じる。
内部労働市場(インターナル・レイバー・マーケット)の特徴は、1)長期雇用関係2)雇用のための限られたエントリー・ポート(就職門)3)企業内キャリアパス4)内部昇進である。
内部労働市場という考えは、1970年代にドリンジャーとピオーレによって経済学に導入された考えである。
労働一次部門、労働二次部門
彼らの考えによると、労働市場は「一次部門」と「二次部門」に分かれるという。
一次部門は熟練を要する仕事で、 たいていのホワイトカラー、一部の職人的技術を要するブルーカラー、技術者、などなど。
一方二次部門とは、さほど熟練を要しない仕事で、 たいていのブルーカラー、事務処理のみのホワイトカラー、アパートの雇われ管理人やスーパーのパートタイマー、季節労働者、などなど。
そして内部に労働市場が生じるのは、一次部門の方であるという。
一次部門では労働者に独立性があったり、権限があったりする。
二次部門では労働者はやや従属的で、仕事や任務に対する決定権が小さい。
つまり一次部門とは「部下やアルバイト・パートを指揮して仕事をするような労働」であり、二次部門とは「他者に雇われて比較的単純な仕事を行うような労働」というわけである。
もちろん一次部門でも内部労働市場が生じない場合はあって、たとえば独立開業している医師や弁護士は一次部門の労働者であるが内部労働市場は生じない。
これらの職業は誰かに指図されて働くわけではないので一次部門であるが、独立しているのだから組織内部で起こる内部労働市場ではなく、外部市場に影響を受ける(あたりまえだ)。
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内部労働市場における給与
二次部門の労働者は、外部労働市場に大きな影響を受ける。
仕事内容が比較的熟練を必要としないので、社会全体の賃金水準が下がれば「雇い替え」が起こる可能性があるのだ。
だが一次部門の内部労働市場における給与は、外部労働市場とは切り離されている。
内部労働市場では従業員の能力や効率に応じて賃金が支払われるのではなく、割り当てられた仕事内容(職種)によって報酬が決まるからである。
つまり組織内では「社長は○○万円」「副社長は○○万円」などと言う風に給与が決められ、そして給与水準は段階的に決定される。
たとえばスタンフォード大学では、B7~B24、C4~C10、N11、などという職能カテゴリーがあり、27段階の職能とそれに支払われる給与がある。
カテゴリーBは「非免除職(ノン・イグゼンプト)」と呼ばれる。
これはタイムカードで出勤状況が把握され、残業などの手当てがキチンと支払われる労働者だ。
カテゴリーCは残業手当などが支給されない管理職や専門職、あるいは技術職・監督職である。
大学の職員はそれぞれのカテゴリーの下位の職種から仕事を始め、そして次第に高給の任務を任されると言う形で昇進する。
だがしかし、B9の職種の職員がB10の職員より給料が安いとは限らない。
そこにはわずかであるが年功や熟練度による上乗せがあって、ベテランのB9の職員は新米のB10職員よりたくさん給与をもらっていることがある。
またこのランキングは給与に関するものでしかなく、仕事上の命令系統の上下を意味しない。
つまり同ランクの報酬の職員であっても、職種が異なれば片方が上司でもう一人が部下と言うことになる場合もある。
たとえばデザイナーが経営者より高い報酬を取ったりするようなものである。
つまり内部労働市場では、命令系統の上下関係によって構築される「任務ヒエラルキー」と、報酬の多い少ないによって構築される「報酬ヒエラルキー」という二つのヒエラルキーが存在する。
たとえば日本の人事部はそれを勘案することでジョブ・ローテーション(何年か毎に部署や担当が変わっていく)を上手く組んでいたのである。
今回の・・・
内部労働市場という考えは、不特定多数の雇い主と不特定多数の労働者との需要・供給バランスによって雇用される労働者の数や賃金が決定される自由(外部)労働市場より、いまの現状に即したアイデアといえます。
組織の経済学では「長期的に効率的である」から「こういう現在の組織や経済のかたち」になった、というパターンでモノを考えています