情報の非対称とシグナリング
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取引を行ったり契約を交わす前に「情報の非対称」が発生していると、どちらか一方は相手より不利な状態で取り引きしたり契約を交わしたりせざるを得ない。
たとえば「今、渋谷で大人気!」「大阪や神戸で密かなブーム!」なんて地方で怪しげな商品を並べても、渋谷や大阪の最新情報を持っていない消費者には、その情報が本当かどうかは分からない。
こういうような事が起こると、より詳しい情報を持っている人間はより乏しい情報しか持っていない人間より、とりあえず有利になる。
だがしかし、もしそのより詳しい情報を握っている人間が正直に自分の握っている情報を相手に披露したとしても、それが相手にまともに受け入れられるかどうかは定かではない。
というのもそう言った場合の情報とはたいてい申告者に都合のよい情報であることが多いから、それを受け取る相手も用心するからである。
「今、渋谷で大人気だよ!」「大阪や神戸の女のコは、これを買うのに行列してるよ!」と言われて、本当にそうであるかは疑わしい。
だからそこで情報のない側の人間には、相手の持つ情報が本当かどうかを見極めるインセンティブが生じる。
私的情報をどう探りどう評価すればよいのだろう。
「シグナリング」と「スクリーニング」がその戦略である。
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シグナリングとスクリーニング
シグナリングとスクリーニングとの違いをまず書いておくと、こういう感じになる。
- シグナリング :情報を持つ者が先に行動する。
- スクリーニング:情報を持たない者が先に行動する。
まずシグナリングというのは、たとえば「就職の際に高学歴を示すような行動」のことである。
つまり仕事を探している人間が「自分は高学歴だよ!」というシグナルを出して、「だから雇うとお得だよ!」と言う感じで仕事を探すのがシグナリングである。
雇い主はその「高学歴」というシグナルを受け取り、「それじゃあウチで働いて下さい」と、その人間を雇うわけである。
だけどこれにはちょっと問題がある。
というのも「高学歴」=「よく働く」という相関関係がなければ、この高学歴というシグナルはシグナルとして役に立たないのである。
高学歴の人間が「必ずよく働く」とは、言えないだろう。
ボクも京大の大学院生で、ぜんぜん働かなかったヤツを知っているが、だからこの「高学歴」というシグナルが「よく働く」というシグナルして成立するためには、ある制約を満たさねばならない。
つまり
(1)生産性の低い労働者は、高水準の教育を選好しない (→怠け者は勉強もしない)。
(2)一定の教育水準に達していないことが、その人の労働生産性が高くないことを示す。
つまり高い生産性を示す労働者は一定以上の教育水準の達成を得ようとしないわけがない。
→働き者は、何が何でも勉強するという二つの相関関係がなければならないのだ。
これを「自己選択(セルフ・セレクション)制約」という。
シグナリングのコスト
シグナリングは私的な情報の公開である。
だがそのシグナルを示すには、何らかの努力と成果が必要なのである。
高い学歴を得るには、長い年月と学校へ通うためのとんでもない費用がかかるし、何らかの有用な資格を取ったり他人にもその価値が分かるような成績や結果を出すのにも、かなりの時間や金や努力といった様々なコストがかかる。
だからシグナリングを行うために、このような巨額のコストをかけて学歴や資格を得るという価値があるかというと、疑問である。
実際のところ、高い教育コストをかけて高学歴を収め高い賃金をもらうのが得か、それとも教育コストをかけずに低賃金に甘んじる方が得かはわからない。
勉強なんかせずとも金儲けをしている人間はたくさん居ることだし、少なくともシグナリングのためだけに、そういう事をするのは社会的浪費であろう。
社会でよく見かけるその他のシグナルとしては、製品の保証書や返品・返金制度がある(つまりそれが高品質のシグナルとなる)。
また企業の株式発行額と負債額の比率は、その企業の将来の見通しに対するシグナルになる。