コーディネーションと投資の保護

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 生産のための部品を、市場から調達できれば安く付く事が多い。

 

 だがそういう市場に競争的なサプライヤーがたくさん存在せず、また標準的な部品では自社の製品に間に合わないような場合には垂直統合(つまり自社製作)が意味を持つ。

 

また自社での消費量が多く、自社内で製作した方が安く付くような部品の場合も垂直統合して自製する方がコストを削減できる。

 

 現代の経済では技術が高度に専門化した上に、生産能力がとんでもなく上昇したお陰でこのような垂直統合はなかなか起こらないことが多い。

 

そう言う部品を注文すれば作ってくれるようなところが多くなったし、ソレクトロン社のように機械の組み立てを丸ごと請け負うような会社さえ出てきた。

 

 けれども、現状で市場から調達される財やサービスが必要を満たさない不満足なモノであった場合、その財やサービスの生産を自社で始めることも珍しくない。

 

 たとえば韓国のLG(ラッキー・ゴールドスター社)が多角化していったのは、韓国の市場から必要な部品が調達できなかったということに由来する。

 

 企業が垂直統合を行ってインプット部品の自製を行うのはそうした「供給側に対する不満」がある時である。

 

 そしてさらに言えば、ホールドアップ問題や不完全なコミットメント問題が起こるような懸念がある場合である たとえばある特注の部品を競争入札などで安く注文するとする。

 

 その部品はこれから作ろうとする製品の中でなくてはならない部品であり、他の上流メーカーからは購入できない(或いは新たに別のメーカーに注文しても納期に間に合わない)ものである。

 

 こういった場合、上流メーカーにはホールドアップを突きつけて高く部品を買えと脅しをかける余地や誘惑が生じる。

 

 納期に必要量出荷できないかも知れない、、、とか、前金が少ないから注文量全部は作れないということになれば、、こんどは注文を出す方もそれを見越して注文をださなければならなくなったり、或いは注文自体をやめたりすることも起こる。

 

 投資を行っても、投資する相手が誠実に働かなかったり、報酬の値上げを要求してきたりする場合、投資が過少になってしまうという現象、つまり「不完全なコミットメント問題」が起こってしまうのだ。

 

「特殊な投資」が必要で、かつ、このような問題が生じる場合の第一の解決策は、前述の章でもあったとおり、「所有者の統合」がもっともよい解決策である。

 

 だから、ここに垂直統合の必要性が生まれる。

 

 自社内での生産なら、いくら作るかどのくらい作るか何時までに作るか、といった計画は自らの手で決めることができる。

 

 だから、交渉費用も節約できる。

 

もちろんそれでも企業組織内でのコーディネーションは必要になるのだ。

 

 しかし、他企業に投資するよりはかなり費用が安く付くことだろう。


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情報伝達と業績インセンティブ

 そしてまた、製造企業と販売会社が別企業の場合、最終消費者の情報は販売会社が持つことになる。

 

 すなわち販売会社にはお客さんが何を求めているか、どのような商品が売れているかという情報を得やすいのに対し、製造企業にはその手の情報はつかみにくい。

 

 一つの企業の中であれば情報の伝達距離は比較的短くなるが、異企業間では「情報は資産」である。

 

 だから、製造企業が販売状況など売場の情報を集めようとするなら、それに対してコストをかけなければならない。

 

 日本のビール会社は小売店である酒屋や酒場に営業マンをどんどん送り、現場の状況をいち早くつかもうと努力しているが、そういうシステムや販売店とのコーディネーションがまた別に必要になってくる。

 

 このような場合にも、垂直統合が役に立つ場合もある。

 

 場合もある、、と書いたのは、やはりそこは前述の通り「販売には範囲の経済性が大きな問題となる」からである。

 

 たとえば酒屋やスーパーなどの小売店は、一社の製品のみで商売をするわけにはいかない。

 

いろんな商品を扱い、一カ所でいろいろな商品を購入することができるということが、顧客の経済性を高める、つまり「便利」だからである(範囲の経済性)。

 

 この場合、メーカーと販売会社が別会社と言うことになるが、こうなるとメーカーは販売会社に対し、販売インセンティブを与えなければならなくなる。

 

すなわち販売会社が別会社であると、キックバックや売り上げ達成支払い制度などを利用して、自社の製品を積極的に売ってもらわねばならなくなる。

 

 たとえば本屋などではたくさんの出版社の出版物を扱っている。

 

 だから、出版社は自社の本をより目立つ場所に展開して貰ったりするために、そのような様々な業績インセンティブを本屋に与えなければならない。

 

幾ら以上販売したらキックバック幾ら、とか言う感じで。

 

 自社の系列の販売会社であれば、そのようなインセンティブは弱くて済む。

 

たとえばガソリン・スタンドがガソリン・メーカーの系列で固められているのは、そう言うことである。

 

 そう言う場合に垂直統合は役に立つ場合もある。

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