効率性賃金(準レント)とインフルエンス活動
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効率性賃金、すなわち有能な人材を組織に引き留めるために、均衡賃金より高い賃金を支払うようなことが行われると、今度は組織内に「レント差」が生じることになる。
というのも同期に入社した社員であっても、社員が受ける訓練の内容によっては将来の報酬水準が大きく異なってしまうということが起こるのだ。
たとえば同じく有能な二人の社員AさんとBさんがいたとする。
で、Aさんはアメリカの大学のビジネス・スクールに一年間研修に出され、Bさんは営業の最前線にまわされたとする。
そうしたら、その後の二人の賃金水準は大きく異なることだろう。
Aさんはビジネス・スクールを出てキャリアを身につける。
だから、そのキャリアを必要とする他社からの引き抜き圧力が生じる。
企業はAさんに投資をしたわけだから、Aさんを引き抜かれないように高い賃金を支払うしかない。
つまり準レントが発生する。
一方Bさんには営業能力を認める取引会社の中小企業のオーナー社長から「娘婿にぜひ」なんていう引き抜き圧力はかかるだろう。
こういう場合は、「あっそう? それは良かった、元気でね」てなことになるだけで、大した報酬が支払われなかったりする。
もちろん営業で抜群の成績を上げれば逆にBさんの方が引き抜かれる可能性が高くなり、ビジネス・スクールを出ても組織内で手腕を発揮できないならば引き合いがなく賃金が上がらないということもありうる。
しかし少なくとも「ビジネス・スクール出」という看板は表向き有効な看板である。
だから、それに抗するだけの賃金上乗せ(すなわち準レント)しての支払いはどうしても必要となろう。
そういうふうに将来の待遇が大きく異なることが分かれば、社内のどの部門に配属されるか、本社に配属されるか田舎に配属されるか、有利な研修を受けることができるかどうか、と言ったことが重大な問題となる。
準レントに大きな差が生じるのであれば、従業員は「より高いレント」を目指して活発なインフルエンス活動をするインセンティブを持つことになる。
だがこのインセンティブやインフルエンス活動がもし、人財資源の適材適所への配置を歪めてしまうとするなら、それは逆に大きな損失(ロス)を引き起こすことになる。
このロスのことを「インフルエンス・コスト」という。
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インフルエンス・コスト
インフルエンス・コスト発生の可能性が高くなる場合の要件は、次の二つである。
1)組織内の費用の配分や便益の分配を意志決定する機関(取締役会など)が存在する。
※ これはまあ当たり前だろう。
事業部が独立採算制でもやっぱりそういう機関は存在することだろう。
2)そういう配分の意志決定が下される前に、影響を受ける側が決定権をもつ者に対して働きかけをする時間とチャンネル(通路)がある。
要するに「判断をする主体がいて」「それに対して自己アピールをする時間とコネがある」ような場合、組織内の貴重な資源(金や人材)がインフルエンス・コストにたくさん投入されることになるというわけである。
これは場合によってはとんでもない浪費である。
公営企業や公的組織では、とんどもない無駄遣いである。
だがしかし、こういうインフルエンス活動を行うのは組織内の人間だけではない。
組織のトップの判断によって大きな影響を受ける全てのグループが、そういうインフルエンス活動に参加する。
たとえば大きなスーパーが業績不振店を閉店しようとすると、その店の幹部社員はもちろん反対するだろうし、周辺住民ももしかしたらそれに加わって署名運動を始めたり、影響力のある政治家を動かしてそれを止めさせようとするだろう。
逆に株主や資本家は不採算店なんか売れと言うだろうし、銀行もそれを売って借金を減らせなどと言うだろう。
そういう感じで賛否両論が飛び交い、様々なグループがインフルエンス活動を行い、その結果全体としては大きなロスを生んでしまうのである。