レントとインセンティブ
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経済学には「レントrent」や「準レントquasi-rent」と言う、よくわかったようなわからないような概念がある。
レントとはすなわち、労働者が特定の仕事を引き受けたり、企業がある市場に参入したりする場合の誘因(インセンティブ)となる「上乗せ利益分」のことだ。
たとえばある労働者が今勤めている職場を辞めて他の企業で働く場合にもらえる報酬をw^とすれば、 w-w^が、現在の仕事の「レント」ということになる。
またある企業がある財やサービスの生産を始めるとき、その財やサービス財が最低p^の値段でqだけ売れると踏んだ場合、実際の価格p(>p^)とp^との差額にqを掛けたもの、すなわち (p-p^)×qが、その財やサービスを生産する場合の「レント」である。
つまりある人が企業で労働市場で決まる賃金より高い賃金をもらっているような場合、現在もらっている賃金と転職してもらう賃金との差がレントであり、これが十分大きければその人は転職せず企業のために働いてくれる可能性が高くなる。
すなわち レント → インセンティブ である。
またある商品、たとえばソニーのプレイステーションがプレミア付きの高い値段で何千万台も売れるような場合、通常の生産販売コストp^と販売価格pとの差が大きくしかも販売台数も大きいから、 (p-p^)×qで計算されるレントが大きくなる。
だからマイクロソフトもXBOXという家庭用ゲームのハードを作って世界中に売ろうということになり、巨大なレントが巨大な投資を行って新規参入をするインセンティブになる。
レントという用語はいろいろな意味合いで用いられるが、組織の経済学のテキストの中では、そういうインセンティブを生じる原因の一つがレントなのである。
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レントと希少性
さてレントについて書いてある経済学のテキストにはたいてい、「レントが発生するのはその希少性故である」と書かれていることが多い。
というのもたとえばイチローとか大リーグの超一流プレイヤー達は、もの凄い額の契約金で球団と契約を交わす。
しかし、そのプレイヤーがその巨額な契約金に見合うだけ働きをし、それに見合うだけの観客を集めているかは疑問である。
だがそういう実力と人気を持ったプレイヤーは少なく希少だから、実力以上の金を上積みして契約を結ぶ。
そうでないとそのプレイヤーと契約が結べなくなる。
つまり契約を結ぶための「上乗せ分」が「レント」であるわけだ。
しかし、しかしもし彼らが実際にそれだけの利益を球団にもたらしていないとすれば、市場の均衡によって労働報酬が決定されるという考えから外れたおかしな現象ということになる。
「これは特別な現象だ」というのがつまり希少性による説明の多い背景なのだろうと思う。
だがこのテキストのように「インセンティブを発生させる原因」としてレントを定義すると、これはそんなに特別な現象でもなければ希少性による現象でもないことがわかる。