移転価格と市場を模したシステムの利用
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コーディネーションと組織の構造は密接な関係にある。
と言うより組織の各セクションのの役割分担を決めるのがコーディネーションであり、構造が異なればコーディネーションの形が変わるのは当たり前である。
たとえば中央集権的な構造を持つ組織では、コーディネーションは余り必要でない。
中央(本社)と末端(現場)の関係は言ってみれば主人と奴隷の関係にある。
だから、報告と命令だけを徹底すればよい。
だがそれでは非常に非効率で、状況の変化に対応しきれない。
現場で判断できることは可能な限り現場で判断し、行動する方がタイム・ラグの発生も押さえられるし、現場の判断能力の向上も望める(=分権的システム)。
しかし権限を全て細かく分けて末端の各セクションに与えてしまうと、今度は組織全体としての戦略がおぼろげになり、共通化できる部品や部門まで別々にいくつも存在したりして無駄が多くなる。
権限を現場近くのセクションにできるだけ下ろし、かつ、効率的に組織を編成しコーディネートする方法というのはないのであろうか? そう考えたとき、考え出された一つの評価方法が「市場を模したシステムとインセンティブの利用」であった。
市場を模したシステムとは何かと言うと、組織内の一部署をあたかも市場にある一つの企業・一つの事務所のように取り扱うシステムである。
すなわち組織内の各部門を分割し、ある部門から別の部門へ財やサービスが移転する場合に「移転価格」を計上し、組織の内部にあたかも市場があるかのようにするのである。
各部門の統括者は自らの部門の業績を上げるために、仕入れる財やサービスは買いたたくし、提供する財やサービスは高く売ろうとする。
それによって市場同然の取引を組織内で行おうと言うことである。
市場システムと同様に、各部門はその移転価格を元に自らの部門の「事業」を展開し業績を上げる。
そしてその業績によって各部門の位置づけが決まり、部門間のコーディネーションが部門間取引によっていつの間にか行われるわけである。
だがもちろんこれは一つの方法であって、外部に同様の市場が存在しなければ上手く機能しないものである。
なぜなら外部機会、つまり組織の外部から財やサービスを購入できるという機会・チャンスがあることが、その財やサービスの移転価格を妥当な価格まで引き下げるからであり、それによって各部門の業績が初めて現実の業績に近いものとして計算できるからである。
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組織とインフルエンス活動
組織内に市場システムを模倣して導入するというのは、言ってみれば苦肉の策である。
組織内では原則的に同種の部門は一つしか置かない。
たとえば同じ地区に同じ商品の販売部門を二つも三つも作ってみても明らかに無駄だから、一つに統合しようと言うことになる。
同じ商品を製造する工場だって、一つの工場で供給が賄えるなら一つで作る方がコストは下がるだろう。
だから組織内の部署は、基本的にそれぞれ異なる仕事を担当しているわけであるが、これでは組織内の各部門の業績を比較することができない。
どの部門がその組織の業績に貢献し、どの部門が怠けているかという情報は実際のところ得られない。
なにせやっていること自体が質的に異なるのである。
だから、根本的に比べられないのである。
業績評価が難しければ、真の業績よりも業績を評価する者(上司など)に対してアピールする「インフルエンス活動」の方がコストのかからない有効なアピールとなってしまう。
因みにインフルエンス活動とは、他人の意志決定に影響を与えることを意図した利己的な活動のことで、要するに上司に取り入ったり、外部的な価値(存在意義)を大きく見積もったりして自部門の業績を誇大にアピールするような活動のことであるが、そのような活動をもとに各部門の業績を評価していれば組織はどんどん外部の現実とかけ離れ、観念的な組織になってしまう。
つまりこれが宗教国家(組織)や共産党国家(組織)にありがちな独善的な観念化の原因であるのだ。
しかし、それでは経済組織はやっていけないから、なんとかそれを打開するために組織内に市場システムのような仕組みを持ち込み、市場によって生じる様々なインセンティブを利用しようというわけである。
外部の市場の存在なくしては、組織内を効率化することは難しい。
これが自由経済圏が共産主義圏よりも「効率性において」優れていた点である。
※市場のシステムについてはまた後日解説します。
(つづく)
語句のまとめ
■移転価格■
企業内の部門間部署間で行われる取引価格のこと。
身内価格。
■インフルエンス活動■
他人の意志決定に影響を与えることを意図した利己的な活動 要するに上司に取り入ったり、外部的な価値(存在意義)を大きく見積もったりして自部門の業績を誇大にアピールするような活動。
※「効率化」に対して「インフルエンス活動」はマイナスの要素ということになります。
業績評価が難しい部門や観念的な仕事ほどインフルエンス活動する余地が大きく、その部門への過剰な資源配分が組織全体の効率化を大きく後退させるという感じですかね。
■外部機会■
ある店であるモノを買おうとしたとき、近くに同種の商品を扱っている店がなければ店主はそれを高く売ろうとする。
だがこの時他に同種の商品を扱っている店が近くにあれば、店主がいくら高く売ろうとしても、別の店でそれより安い店を探せばよいだけだから、それをあまり高い値段で売ることができなくなる。
このような「よそで買うチャンスがある」ことを「外部機会がある」という。
また特に就業機会のことを「外部雇用機会」などといい、外部雇用機会が十分にあるなしによって、労働者の賃金や待遇が良くなったり悪くなったりすることが多い。
たとえば第二次世界大戦前の東北や北陸では、人口が増えているのにもかかわらず就職口がなかった。
そのために農家は人であふれ、地主は小作料を引き上げ、農民は塗炭の苦しみを味わった。
だがその一方で関東や近畿などの農業地域では、地主が小作料をなんと二~三割も引き下げていた! それはもちろん東北の地主が強欲で、近畿の地主がお人好しだったからという説明も可能だろうが、外部雇用機会が東北にはあまりなく、関東や近畿では働く工場や商家がたくさんあったという事情による。
だから日中戦争~太平洋戦争にかけて軍需工場が東日本に作られると、小作料も落ち着くという現象が見られた。