移転価格と付加価値

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 事業部と事業部の経営責任者の業績は、財務データによって測られる。

 

 事業部の費用・収入・利潤・投資の成果などが計算され、それが以降の予算配分や人員配置の変更(昇進・降格・罷免)などに影響する。

 

 もちろん事業部が最小の評価集団ではない。

 

事業部の下にも小さな責任センターがあり、各部署や部署長の業績も同じように測られる。

 

 だが事業を市場で行っている場合ならともかく、組織内の各部門の業績を財務データで測るのには問題がある。

 

 というのも市場取引や外部との取引によって生じた収入や費用や売り上げなら、別の取引参加者が介在するから少なくとも客観的なデータであると見なしても構わないだろう。

 

 が、同じ企業や組織内で行われる取引は別の取引参加者のいない一対一の主観的な取引にならざるを得ないからである。

 

 このような企業内・事業部間での取引価格を「移転価格」と呼ぶわけだ。

 

 しかし、移転価格の設定次第で各部署の業績が高く評価されたり低く判定されたり或いは昇進に響いたりするわけだから、どうしてもそうなる。

 

 そうして各部署は移転価格の設定を自らの部署に有利な価格に設定しようと行動するのだ。

 

 しかし、それは「企業の利潤とは関係ない」。

 

 というのも移転価格はある財やサービスを生産したときに生じる付加価値を「奪い合っている」だけだからである。

 

 つまり組織外部から見れば{原材料価格}= 市場取引価格或いは外部取引価格↓↓↓ (付加価値)↓↓{販売価格}= 市場取引価格或いは外部取引価格であるが、組織内部を考えると{原材料価格}= 市場取引価格或いは外部取引価格↓ (原材料価格P0){部署A}↓ (移転価格A;付加価値ΔA){部署B} ↓ (移転価格B;付加価値ΔB){部署C} ↓ (移転価格C;付加価値ΔC){部署D}↓ (販売価格P;付加価値ΔD){販売価格}= 市場取引価格或いは外部取引価格ということである。

 

(したがって企業の生産する付加価値P-P0は、 P-P0 = ΔA+ΔB+ΔC+ΔD。-


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移転価格システムの欠陥

 移転価格システムの欠陥は、それがコストダウンにつながらないということである。

 

 というのも各部署の業績はその部署の財務データによって評価され、各部署の移転価格はその部署にとって都合の良いような価格に設定される。

 

 だから、どうしてもその部署の「生存費用」とも言うべき費用に左右されるからである。

 

 そうしてある部署がある財やサービスを高価格に設定すると、他の部署はその部署からその財やサービスを購入しなくなるということも起こりだす。

 

 たとえば企業内の文書を専門的に作成する部署があったとしても、その作成コストが高ければ各部署で自前で文書を作成するか、秘密漏洩の危険を冒しても外部にそれを発注するということが行われる。

 

 コストの高い企業内の別部署から財やサービスを購入すると、自部署の業績が悪くなるのであるから仕方がない。

 

 それでも全て自前で財やサービスを生産しようとすると、外部への販売価格が他の企業や組織の生産する同等の財やサービスの価格より高くなってしまう。

 

 だからある財やサービスの生産が外部でも可能で、しかもそれが移転価格より安価で、かつ事業の展開に支障がなければ、その業務は外部に発注することになる(アウト・ソーシング)。

 

 そして外部から必要な財やサービスを安価に購入できない場合には、その生産部門を新たに企業内に作り「垂直統合」が行われる。

 

 企業や組織の有り様は、そうして常に外部との関係によって決まってくるのである(詳しくは第16章:企業の境界と構造をお読みください)。

 

(次回から第四章)

 

今日のまとめ

 

・・・ 次回から他の経済学ではなかなかお目にかかれない、この本独特の面白い概念が続々登場します。

 

 デザイン属性、逆選択、モラル・ハザード、不完全なコミットメント問題、特殊的資産とホールドアップ問題、、、、etc. 何かモノを考える上で、これらの概念は非常に重要な視点を与えてくれるように思います。

 

お楽しみに。

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