貸し手の監視インセンティブ
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株主というのは「額面」では企業の所有者であるとされている。
だがしかし企業の株式が細かく分散所有されるに従って、株主の要望は経営陣によって拒否されることが多くなった。
たとえばアメリカのロスペロー氏は、自らの企業を売却する代わりにGMの大株主となったが、取締役に就任してもGMの経営を変革する事はできなかった。
またブーン・ピケンズは、トヨタ自動車のライトを作っている小糸製作所の株式を26%取得したが、同社の会計帳簿を見ることさえ拒否され、訴訟では勝ったが同社の経営には何の影響も及ぼすことができなかった。
彼らは結局、市場価格より少し高めの金額でその株式を売り渡すしかなかった。
本来所有者であるはずの株主が、企業の経営者や取締役会を監視したり彼らに自らの要望を実現させるよう働きかけるインセンティブが低い水準に止まる。
この理由は、一つには「監視コストに比べて、そのリターンがわずかである」ということだ。
また「自分達以外の多くの株主が監視活動に協力しなかった場合、それは結局自分の投入した努力を他の株主に分け与えているだけである」という「フリーライダー(ただのり)問題」が起こるからである。
フリーライダー問題がある時、供給量は需要量をたいてい下回る。
例えば都会に公園が少ないのは、自分の土地を公園として提供する市民が少ないからである。
公園という場所はなんだかんだ言っても開放された場所で、その利益は周囲の人々に及ぶ。
が、その利益に対して所有者に対して何か還元しようと言う利用者は少ない。
つまり大抵の人がフリーライダーで殆どの人が公園を維持する費用を負担しようとしないから、公園を提供しようという人間は少ないのである。
そういうわけだから株式が分散所有されているとき、その株式の価値を維持したり高めたりするための監視インセンティブは必要水準を下回ることになる。
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フリーライダー問題
そういう視点から株主の監視インセンティブを高めるための方法として考えだされたのが、LBO(レバレッジド・バイアウト)協会である。
レバレッジド・バイアウト協会とはつまり、ある企業の株主が集まってその企業の株式を市場から買い上げ、株式の保有比率を十分に高めて株主の権利を行使すべく取締役会に代表を送り込むという方法であるが、そうでもしないと取締役会も経営者も自らの取り分や部下の取り分を増やそうとばかりするわけである。
結局株主が企業の経営を糾すには、経営者や取締役会をいつでも罷免したり解雇できるだけの比率の株式を所有していなければ、どうしようもない。
つまり経営者のモラルハザードを防ぎ、経営者に私腹を肥やす以外のインセンティブを与えるには、「倒産」と「解任しかないようである。
貸し手の監視インセンティブ
投資家は企業の業績を監視するインセンティブを持つ。
特に海のものとも山のものともわからないコンピューター関連企業に投資を行い企業を育成するベンチャーキャピタリストは、その企業が大きな会社になってもその監視の手を緩めない。
例えばiMacでおなじみのアップル社のベンチャーキャピタリストは、創業者であるスティーブ・ジョブズを突如解雇した(現在は暫定CEOとして復帰)。
だが貸し手の側にもまた、企業の業績を改善するために企業を監視するインセンティブがある。
大企業であっても外部資本の大半を長期銀行ローンが占める場合には、銀行は企業の行動を監視するべく取締役会代表を送る場合が多い。
あるいは航空会社のような企業に金を貸す場合は、担保として飛行機を抑えるという条項を盛り込んだ融資が行われる場合が多い。
このような慣行のよく用いられるひとつのバリエーションとして、「長期リース」がある。
例えば航空会社に融資を行う代わりに銀行が飛行機を買い、それを航空会社に長期リースする(一定期間後に航空会社はその飛行機を割安で購入できる権利を認めている場合もある)。
このようなリースはほとんど融資と同じことになる。
というのも航空会社は一定期間にわたって契約の定めの額の支払いにコミットし、不履行の場合には航空機を失うからである。
実際にアメリカのトランス・ワールド航空は、1991年支払い不履行でリースされた航空機を掻き入れ時に差し押さえられる寸前であった。
そういうふうな形で企業への貸し手も企業を監視する。