従業員の持つ私的情報の導出
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組織の幹部は、幹部でなければ知らない情報を持つ。
しかし組織の従業員も、その部署でなければ得られない情報を持っている。
たとえば経験豊かな販売員は、担当地域の市場の潜在性について販売担当管理者よりもずっと多い情報を持っている。
その情報は言葉や文字にできるような明確な内容だけでなく「皮膚感覚」とでもいうような曖昧模糊とした感覚情報までを含んでいる。
それは紛れもなく現場にいる者の感覚であり、貴重な最前線の情報である。
だから管理者はそういう情報を部下からうまく引き出し、役立てるように努めねばならない。
耳障りだからといって間違っても正確な情報を提示した者を罰したり、無視してはいけない。
さもないと管理者は部下や従業員からだんだん正確な情報を得られなくなり、時には誤った情報を報告されることとなる。
たとえば航空機業界では航空機が事故を起こした場合、パイロットに対し免責を行うことがあるが、それはパイロットが自分の持つ情報を開示すれば多大な責任を負わねばならなくなることを恐れ、その情報を提供することを拒むのを防ぐ目的である。
アメリカの裁判でもよく犯罪者や証人に免責と引き換えに事情を聞くという「司法取引」が行われるが、それもやはり犯罪者や証人が責任追及を恐れて重要な情報を開示するのをためらうのを防ぐためである。
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情報利用のためのシステム
組織が部下や従業員のもつ業務上の私的情報を、仕事にうまく利用させるためのシステムとして「契約メニュー」「目標管理」がある。
たとえばある地域の情報を、ある販売員が私的につかんでいるとする。
つまり「この地域は潜在的な需要が大きいぞ」などといった情報である。
で、その販売員と本部との販売契約(歩合)が、単純で一律な歩合制であったとする。
そうすると、その地域の販売が非常に有利な状況にあるという情報をその販売員は隠す。
隠して販売員は適当に働き、企業の管理者に対してその地域の潜在的状況を過少に判断するよう行動するだろう。
本来は月に200個販売できるだけの状況にあっても100個しか売らず、それ以上売れば歩合が割り増しになるように働きかけるかもしれない。
それによってその販売員は労せず稼ぐことが可能になる。
だがもし各販売員に三種類の報酬制度(基本給+歩合給)を示し、その「契約メニュー」から契約を選択できるようにシステムを組むならば、そのような弊害は防ぐことができる。
たとえば「契約メニュー」を次のように設定する。
- 契約1:高い基本給と低い率の歩合給のセット
- 契約2:中位の基本給と中位の歩合給のセット
- 契約3:低い基本給と高い率の歩合給のセット
販売員に対し、このメニューの中から契約を選ばせる。
するとその地域の潜在的売り上げが高いと見積もる販売員は契約3を選び、低いと見積もる販売員は契約1を選択することになるだろう。
有望な地域の販売員は契約3を選び、可能性の小さな地域の販売員は契約1を選択する者が多くなるだろうから、管理者としてもその地域の状況が把握できるようになる。
それは同時に可能性の大きな地域の販売員に強い販売インセンティブを与え、可能性の小さな地域の担当販売員には給与の最低保障を与えることになる。
また従業員の持つ業務に関する私的情報を利用させる別の方法として「目標管理」がある。
高い業績目標を受け入れる者に対しては高い褒賞を約束し、低い業績目標しか受け入れない者にはボーナスをケチるという形でインセンティブを与えるのである。