国鉄民営化とインフルエンスコスト
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かつてJRが「国鉄」と呼ばれていた頃、国鉄は毎年毎年一兆円もの赤字を垂れ流していた。
そこで日本政府はことあるごとに何度も国鉄の大赤字路線を廃止しようとしたり、国鉄を分割民営化して何とか赤字が出ないようにしようと画策した。
しかしその都度国鉄労働者を支持母体とする野党や廃線の可能性の高い地域選出の議員たちの大反対によって、その都度抜本的な手を打つことができなかった。
そして何もできず、結局ダラダラと長い間放置しつづけることになってしまった。
そうして十数年も国鉄の経営をそのまま放置した結果、ついには累積赤字が17兆円にも膨れ上がり、分割民営化して十数年も経つというのに未だにまるで借金が減らない状態なのである。
この国鉄のとんでもない負債は、採算を度外視した非経済的な経営によってできた負債と言うより、日本中で十数年に渡って繰り広げられた様々なインフルエンス活動によって生じた負債、すなわちインフルエンス・コストであろう。
インフルエンス・コストの大きさは中央本部の存在の大きさや、意志決定手続き、組織メンバーの利害共有度、コンフリクトの度合いなどに左右される。
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インフルエンス・コストと合併の失敗
かつて別々であった二つ以上の組織を一つの組織の下においてコントロールする場合、インフルエンスの範囲は広がり、各部門はそれぞれ利己的な主張をし始める。
たとえば各部門は「自分たちの部門こそ将来性があり、有益な部門である」と主張し、予算や人員の配置を増やすよう経営陣にインフルエンス活動を行うだろう。
他部門があげた業績や収益も自部門へと導き、自部門に取り込もうとするだろう。
そして市場で安く手に入るような部品や財であっても、自部門の生産したより高い商品を購入すべきだとし、間接費や企業のコア・コンピテンス構築に役立つとか、従業員の公平性や志気や生産力に影響するといってそれを頑固に主張するだろう。
もしかすると高度な専門知識を要する部門の従業員と同様な高額の賃金を、普通一般の部門の従業員にも支払えという要求さえ出されるかもしれない。
こういうことは合併しなければ、なかなか起こらないことである。
合併によってできあがった組織は、確かに以前には不可能だったことが可能になるが、その一方で各部門が独立していた頃には不必要だった様々なインフルエンス・コストを負担せねばならなくなる。
アメリカ大企業33社の多角化を研究したマイケル・ポーターによると、買収された新事業部門の6割が後日分離され、そして買収を行った6割の企業が結局買収した企業・組織の半分以上を後日譲渡していることがわかった(と『組織の経済学』に載っている)。
独自の歴史を持ち、独自の企業文化を持つ複数の企業を統合するには、そうしてとんでもないコストを負担せねばならないのである。
巨大化すれば何とかなるだろうと合併してドンドン巨大化する昨今の銀行や保険会社は、果たしてこのコストを最少に抑えて経営を健全化することができるのだろうか。