意志決定の主体
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経済学的組織論の分析対象がなぜ「取引」かというと、財やサービスや貨幣(あるいはその所有権)が「取引」によって移動するモノだからである。
取引によってモノの値段や財やサービスの消費量が決定され、それに基づいて次期の生産水準やサービス水準が決定される。
この考えは、市場が価値を決めるというような市場「万能」主義とは一線を画す。
なぜなら取引主体の分析では、市場システムを通した取引も、市場を通さないような取引をも対象にするからである。
すなわち財やサービスが移動すれば、そこに何らかの取引があったと捉え、その取引が一体どういうメカニズムで行われそれが次にどのような影響を及ぼすかを考えているわけである。
だから、経済体制がどのような体制であろうと別に構わないのである。
そして、取引をする主体はあくまで「個人」である。
何かの結論を出すのは結局個人であるし、ワンマン的な組織であっても社長や代表が全ての決定に対して判断を下すわけではない。
部長が判断することもあろうし、係長が判断することもあろう。
また現場の監督やラインの責任者、或いは新人のぺーぺー社員が何らかの判断を下すことも十分に考えられる。
もちろん組織にとって重要な問題であればあるほど上部の責任者が判断を下し、そうでないあまり重要でない(と考えられる)決定であれば、下部や現場の者に判断を任せることになろう。
だがあくまで取引の決定を行うのは「個人」である。
そういった個々人の判断や意志決定が有機的にまとまって、組織というモノが成立しているわけである。
組織の経済学とはそう言う意味で、人間一人一人の行動と、その関係を見つめる学問でもある。
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個人のニーズと効用関数
取引の主体が個人であるということは、その個人の欲望や目的、あるいは置かれた立場や価値観・倫理観などといったものが、取引の種類や方法・結果に対して大きな意味を持つということである。
個人によって組織に入って働く目的はまるで違う。
企業の従業員に就職動機を尋ねてみても、大企業の従業員は「名の通った企業だから」「大きな会社だから」「給料が高いから」などと答えるだろうし、また地方公務員の職員などは「安定しているから」「仕事が楽そうだから」「転勤がないから」なんてことも言うだろう。
新進気鋭の新興産業に勤めている会社員は「将来性があるから」「出世できるから」「働けば働くほど金が稼げるから」なんて言うだろうし、くたびれた斜陽産業で働く者は「他に行くところがなかったから」「潰れても家業があるから」「とりあえず腰掛け」なんて答えるだろう。
もちろん同じ企業の中でも、単に属しているだけでいいという者もおれば、とにかく出世するぞという者もいる。
名の通った企業でなくとも平気だし、好きな仕事ならば賃金が安くても構わないと考える人間も多いだろう。
また家業や別の収入源があって特にあくせく働かなくても良い者もいるし、何かの理由でお金が必要でとにかくそのために働かなくてはならない者もいる。
そういう風に、人によって組織に属することによって自分のどのような欲望を満たすのかはマチマチでありバラバラである。
これら個人のニーズ・欲望・目的に対して一々深く検討することは面倒であり、そして不可能とは言わないが非常な煩雑な作業である。
だから、個人のニーズ・欲望・目的に関する満足度や評価基準をある関数によってとりあえず示すことにする。
それがつまりミクロ経済学などで最初に登場する「効用関数(ユーティリティ・ファンクション)」と言われるモノで、大文字のUを使ってUj(x)のように表す。
jというのは識別ナンバーで、言ってみればj=小沢まどかとかj=川島あずみとかいった個人である(^_^;) U小沢まどか(x)と書けば、小沢まどかさんの効用関数であり、U川島あずみ(x)と書けば、川島あずみさんの効用関数である。
効用関数の一例
効用関数はもちろん様々な形式で表すことができるが、一般的には線型結合(せんけいけつごう)の形で表されることが多い。
線型結合とは簡単に言うと、かけ算と足し算で構成された式だと言うことである。
たとえば
U(X) = a0 + a1*x1 + a2*x2 + a3*x3 + … + an*xn
この式の x1、x2、x3、… xn のjは、この世にある全ての財やサービスや価値であり、その購入金額である。
たとえば「j=ビール」なら、Xjはビールの購入金額になる。
「j=書籍」なら、Xjは本の購入金額になる。
Σx=給料とおけば、X=(x1,x2,x3,…xn)は、給料を何にいくら使うかという小遣い帳のようなものになり、 U(X)はそういうお金の遣い方をしたときのその人の満足量(効用)である。
もちろんxは必ず金銭量である必要はない。
たとえばそれは給料の多寡であったり、仕事の達成感であったり、格好良さであったり、他人からの評価であったり、、と、そういう抽象的な価値であってもよい。
たとえばxjが「大企業の社員であること」であると決めれば、xj=0 or xj=1という変数を割り当てるだけでよい(これをダミー変数と呼ぶ)。
ただダミー変数を用いるかわりに、それを達成する費用を充てることもできるから意味があるかどうかは場合による。
一方 aj は xj に対する係数であり、これが実は人によって違う。
たとえばファッションに敏感な人は、「服装が格好いい」と言うことに大きな満足を覚える。
だから先端の服やそれを評価されることに関する項目の係数が大きくなる。
たとえば
U = a0 + 100億 *(最先端の服)+ 100億 * (ブランドモノ) + 2 * (住まい)+ 10 * (食事)+
一方ファッションに鈍感で、身なりなど気にしないが食い意地だけは張っているという人だと、同じ式でも
U = a0 + 0 *(最先端の服)+ 0 * (ブランドモノ) + 2 * (住まい)+ 1兆 *(食事)+ …
と言う風に、係数の比率が変わってくる。
つまりベクトルA=( a0, a1, a2, a3, … , an )が、個人の価値観になるのである。
(もちろんベクトルAは常に一定とは限らない。
価値観は当然変化するものである) そういうわけで、人は自分の持つ資源(金や努力)をそれぞれのxjに振り分ける。
つまり X(収入・財産)= x1 + x2 + x3 + ,,, +xn と言うことで、生きるのに最低限必要な費用を割り振り、残りは係数の大きな価値xjを優先する風に資源を割り振るわけである。
そうして各個人は限られた知識や情報とニーズ・欲望・目的とを考え合わせ、自らの満足(すなわち効用Uの値)を最大化しようとする。
、、、というのが効用関数モデルの考え方である。
<今日のまとめ>
・モノの値段や取引量(生産量や供給量)を決めるのは「取引」で ある。
・「取引」の主体はあくまで組織に属する「個人」であり、組織で はない。
・「個人」はそれぞれ様々なニーズ・欲望・目的を持っており、一元的に取り扱うことができない。
・だからそれぞれの満足度(充足度)を示す効用関数Uが存在する と仮定し、人々は自らの効用関数Uを最大化させるように行動、 すなわち取引を行う、、と仮定する。
今回の・・・
p54の文献ノートによると、経済学において組織の問題を大きな問題として取り扱ったのは、アダム・スミスとカール・マルクスとフランク・ナイトとジョン・コモンズであり、「取引」を分析の基本単位としたのはコモンズ、効率性を重視したのがナイトである、となっています。
試験に出るかどうかはわかりませんが、書いておきます。
次回は今回の話に関連して、限定合理性の話などの予定。