従業員の努力水準eと評価
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それでは従業員に与えるインセンティブについて考えよう。
雇用主の利益を図って従業員が費やす努力の水準をe、その私的費用をC(e)とする。
努力水準eが示すのは、企業の業績向上に役立つために従業員が行うあらゆる種類の行動、たとえば接客態度の向上(服装を正したり言葉遣いを丁寧にしたり)、業務に役立つ勉強、業界動向や新技術の研究、市場調査や分析、企画の提案、部内作業の効率化などなどの水準である。
そのために支払った授業料や時間、業務の不愉快さ、失われた利益や名声、その他雇用主の利益向上と引き換えに失われる全てにかかわる費用をC(e)とする。
もちろんこれらの仕事が楽しかったり、努力が企業の業績向上とともに従業員のスキルアップに大きく意味があるならばC(e)は0やマイナスになることだってあるだろう。
が、これらの努力はたいてい正当な仕事の一部として認められなかったり、貢献度を正当に評価されないことが多いので、プラスと考える。
企業の利潤P(e)を、従業員の努力水準eに依存する関数であると仮定すると、eが高ければそれは高い利潤をもたらすことになる。
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原因と結果がハッキリしない
たとえば接客態度の良い店員がいたとする。
その店員のお陰で業績が結構向上したとする。
だがしかし、その業績向上が「店員の誰の接客態度」によってもたらされたモノなのかは、店長や支配人にはわかりにくい。
特に裏表がある人間は上司には態度が良いが、部下や客には態度が悪かったりということがよくある。
だから、努力水準eやその結果を評価するのは容易ではない。
そんな状態で店長や支配人の主観で業績を評価し、それによって従業員にボーナスを出したりするとたいていギクシャクする。
同僚や部下はたいてい同僚の人物の裏面を上司や支配人よりよく知っているのだから、それは当然だ。
そしてまた上司や支配人に評価する資質があるかどうかも問題になる。
原因と結果を正確に結びつけるような分析能力が、あるかどうかという問題も起こってくる。
従業員の努力水準eやそれによる業績向上という結果はそういうわけで結局そうそう観察できるもんじゃないから、たいていの場合は仕方なく便宜的に労働時間や仕事に費やしたエネルギー量などで数値化することになってしまう。
eを努力水準、xを需要水準(確率変数)、yをその産業全体に対する需要水準とすると w(賃金)=α(基本給)+β・(e+x+γy) というモデルを立てることができる。
このモデルにおいて歩合給を決めるのは「本人の努力」と「店全体の売り上げ」と「その産業全体の状態」である。
このときのこの式のβを特に「インセンティブ強度」という。
α(基本給:固定)が大きくβ(インセンティブ強度)が小さければ、従業員に与えるインセンティブは弱く、逆にαが小さくβが大きければ従業員に与えるインセンティブが強い、というわけである。
※もちろんβが大きければ大きいほど従業員の負担するリスクも大きくなるので、それを受け入れる従業員数は少なくなる。