雇用関係と暗黙の契約

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 労働契約はたいてい「関係的契約」(リレーショナル・コントラクト)で結ばれる。

 

 労働契約は、状況によって様々に変化する労働内容を完全に書き記すことができないので「完備契約」が結べない。

 

だから「勤務時間内の業務に関することに限って、労働者は指揮者の命令どおりに働く」というような内容の契約が結ばれる。

 

これがすなわち「関係的契約」である。

 

 そしてまた企業というのは特定の人物やグループを「ボス」として、それらの人々の指揮の元に活動することになっている。

 

 なぜなら組織に所属する人数が互いに契約を交わして相談しながら企業を運営するのは不可能に近く、現実的にとんでもないコストと時間がかかるからである。

 

 組織には「組合的組織」と「社団的組織」がある。

 

 組合的組織というのは「ボス-部下」という関係ではなく、組織に参加している人間が原則的に同等の権利を持つ組織で、組織に参加する人間が全員株主、、、みたいな感じの組織である。

 

 このような組織は形式的に全員の合意がないと、動けない。

 

 新たなメンバーを加えるには組織の構成員の了解が必要となるし、組織の行動方針も構成員の合意がないと決めることができない。

 

 組合的組織では、N人の構成員がいれば互いに契約を結び合い方針を決定するためにN(N-1)/2本の契約の束(ネクサス・オブ・コントラクツ)が必要となる。

 

 逆に社団的組織とは、あるルールを遵守するならば参加するのに多数の構成員の了解も原則的に不必要だし、組織の方針を変更するにも組織を運営するグループが決めるだけ、、、という組織である。

 

 人数が多ければ多いほど一般には相談というのはまとまりにくいから、こうして特定の人物やグループを「ボス」として任命し、組織の行動について決めたり残余決定権を与えたりする権限を集中することには意味がある(効率的である)。

 

 そしてその「ボス」を任命する権限は、物的資本の所有者(株主)に託すのが効率的になる。

 

 もちろん人的資本が資本の中心である企業、たとえば会計会社、コンサルティング会社、建築家、弁護士事務所などでは合議制で企業の運営が行われる場合が多い。

 

 が、しかしリスクを負担するのは物的資本の所有者である場合が多いので、その場合でも物的資本の所有者が権限を掌握することが多い。


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「組合的組織」と「社団的組織」(参考)

 組合的組織とは、構成員が合意の元に組織を作る場合である。

 

 たとえば十人程度の人間がお金を出し合って協同組合などを作るような場合である。

 

 この場合、組織で何を行うかという方針は、金や資本を提供しているメンバー全員で相談して決めることが多い。

 

 そうなると新しいメンバーの加入や脱退も、一々他のメンバーの了解を得なければならないし、メンバーの構成が変わると方針も変わるという形になる。

 

 ヨーロッパの農業組合のような場合では、資金を出す者、労働力や土地を提供する者、出資会社、などなどが参加し、かならずしもメンバー全員が農家という必要はないから、農業組合がいつの間にやら食品加工組合になったり交易組合になったりする。

 

 それに対して社団的組織というのは経営執行部を任命し、その執行部の決定で組織の方針が決まっていく組織である。

 

 組織員は組織とただ一本の契約を結び、加入や脱退は原則的に自由である(要するに大企業型)。

 

 社団的組織はメンバーの交代によって方針が変化しにくい組織で大きな組織になると普通、社団型組織になる。

 

 組織を「契約の束」として捉えると、組合型組織では構成員が増えれば増えるほど契約の数が増えるし、合意を形成するのに時間とコストがかかるようになる。

 

 だから当初は組合型組織であっても、組織が大きくなると社団型の組織になる方が効率的で、そうなるのだというのがここの説明である。

 

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