ホールドアップ問題とコミットメントの達成
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契約当事者が、投資がサンク(下で解説)となった後に不利な条件を押しつけられたり、他所の行動による投資価値の下落を恐れるという問題を特に「ホールドアップ問題」と言う。
完備契約では、将来に起こる諸事情に対しての約束が完備されているのでホールドアップ問題は起こりようがないし、ホールドアップ問題が生じても代わりのサプライヤーがいくらでもいるような場合も、その時は他の者に乗り換えればいいだけだから大きな問題にはならない。
つまりホールドアップ問題は、「不完全な契約と資産の特殊性の共存」がある場合に起こるのである。
このような問題に関する懸念は非効率性を生む。
というのも投資によって立場が悪くなることを恐れて、たとえ効率的であってもそういう投資が行われなくなるからである(不完全なコミットメント問題)。
こうして共同特化された資産への投資は「機会主義の恐れ」つまり「契約した相手がチャンスがあれば契約を破棄して取り分の増大を求めたり、契約を放棄して他のより利益がある方に鞍替えしたりする恐れ」によって投資に対するインセンティブが失われてしまうのだ。
だから投資者にこのような事業へ投資を行わせるためには、何らかのコミットメントが必要になってくる。
コミットメントの達成
完備契約が現実には取り交わせない事に対する対応としてまず、「関係的契約」と「暗黙の契約」があった。
このような契約法は契約当事者の「期待」形成に役立ち、予期せぬ出来事の発生に対処するための「決定プロセス」を確立することによって、詳細な契約内容を書き下す困難も回避できた。
一方共同特化された資産への投資が問題になっている場合には、その共同特化された資産を同一の経済主体が所有するくらいしかホールドアップ問題の発生は防げない。
が、それでも実際には様々な問題や障害が存在する。
つまりコミットメントの達成(ホールドアップ問題の防止)には、1)関係的契約2)暗黙の契約3)共同特化された資産の全部を所有という解決策が考えられるわけである。
そして契約以外の手段によるコミットメント実現を達成できるモノとしては4)「評判」がある。
というのも自分に対する「評判」が、事後的な機会主義を防止する有効な手段となって、約束違反や再契約への誘因が克服できる場合があるのである。
たとえばテロリストとの取引に応じれば、テロ防止にコミットしないから、またテロが起こる。
あの国はテロリストに対してまるで譲歩しないぞ、、、という評判がたてば、テロを行うインセンティブは小さくなる。
また正統な請求を支払わなかったり、義務を果たさなければ「信頼できない」という評判もたつ。
あの会社や人物は「約束を守らない」と他の者が認識すると、そういう認識の上に取引や契約が結ばれることになる。
だから、そういう評判の持ち主は他のものと比べて不利な条件でしか契約できなくなる。
契約を結ぶのには費用がかかり、大きな費用をかけて契約を結んだとしても不完備な契約しか結べない現実社会では、そういうわけで「評判」や「信頼」が取引上大きな役割を果たすのだ。
(つづく)
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サンク・コスト
すでに支出してしまった償却費などの固定費をサンクコストという。
企業が新しい生産設備を導入する場合、サンクコストは無視してよい。
というのも新しい事業を始めようが辞めようが、これらのコストはどっちみち支払わねばならないコストだからである。
サンクコストに関して、簡単なモデルを考えてみよう。
コストというのは通常「固定費(CC=コンスタント・コスト)」と「変動費(VC=ヴァリュアブル・コスト)」に分かれる。
固定費というのは生産機械の減価償却費用だとか、レンタル料、だと考える(社員の固定給なども含まれるのかな?)。
一方変動費というのは生産量に応じて増えたり減ったりする支出で、原材料費や人件費の増分などである。
さてここで、 古い生産設備による生産コスト C=CC+VC 新しい生産設備による生産コスト C’=CC’+VC’とすると、古い設備を捨てて新しい生産設備を使う場合のコストはC”=CC’+VC’+CCになる。
だから、C”≦Cならば企業は古い生産設備を棄てて、新しい生産設備を作り生産する条件が整う。
となると、 CC’+VC’+CC≦CC+VCだからCCは両辺から削除され、考えなくても良いことになる。
このCCがつまり「サンクコスト」で、企業が事業を継続しようが事業から撤退しようが同じである。
つまりすでに支出してしまった固定費の費用は今後の意志決定にはまるで関係しないのである。
太平洋戦争で日本は多数の死者(英霊)を出した。
が、それは経済学的に言えばサンクコストで、その先戦争を続けるかどうかとはまるで関係ない。
死んだ人間はさらに戦争を続けようが止めようが戻っては来ないのである(という例が何かの本に載っていた)。
そういうもの。
今回の・・・・
日下公人さんの「人間はなぜ戦争をするのか」(知的生き方文庫)には「戦争が起こるのは、人間の脳の前頭葉が発達して未来のことについて考えることができる。
だから、、、」云々といった話が載ってます。
人間の脳は未来について考えることができるので、未来に対して現在の行動を決めようとする。
しかしその時自らの能力や相手の能力を正確に反映されるとは考えられない。