効率性賃金とインセンティブ報酬
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「高賃金が誠実な行動を導く」という考えは昔から存在した。
というのも1765年頃、インドの東インド会社に雇われていたイギリス人官吏に腐敗行為が多かった。
それは報酬が低く設定され過ぎていて、しかも本国からも遠いからバレにくく、背任行為から得る利益がはるかに大きかったからである、と考えられた。
そして11世紀のマグレブ商人たちによっても同様の高報酬システムと、背任行為が見つかった集団全員を商売から外すというルールが効力を発揮していた。
だからこれは時代を超えて納得されている考えらしい。
さて理論的に言えば、背任を防止するための最低限の報酬は w=w^+g/(NP)となるが、これを効率性賃金(エフィシェンシー・ウェッジ)と呼ぶこととする。
ただし w :現在の従業員の報酬 w^:辞職して他に就職先を求めた場合にもらえるだろう賃金 g :「背任」で得られる利益 N :雇用の継続期間 P :背任行為がバレる確率である。
効率性賃金で賃金を決める場合とインセンティブ報酬によって報酬を支払う場合には、どんな違いがあるのか?
■効率性賃金と失業
インセンティブ報酬システムでなく効率性賃金が採用される理由はいくつか考えられる。
第一には前に述べた「資産効果」である。
従業員にはたいてい罰金を支払うだけの資産がない。
だからインセンティブを上手く効かせるためにはまず、従業員に罰金を支払うだけの高額の報酬(高額の賃金率)を用意しなければならない。
が、これは企業にとって実に大きな支払いとなる。
大型トラックを買えるだけの高額な報酬をドライバーに与えても、そのドライバーがいつまで企業のために働いてくれるかは疑問である。
だからそれはえらく高く付くので効率性賃金制を採用する。
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雇用主サイドのモラルハザード問題
そして効率性賃金を採用する第二の理由は、雇用主による「主観的な業績評価」を用いることができるということである。
インセンティブ報酬では、雇用主は従業員の業績を過小に評価しがちである。
だから従業員もそれに反応して、結局インセンティブに対する反応が鈍ってしまう。
これは従業員の業績を客観的に判断しがたいということから生じる「雇用主サイドのモラルハザード問題」である。
効率性賃金なら、この「雇用主サイドのモラルハザード問題」が解決されるのだ。
しかしその一方で効率性賃金制の明らかな問題点は、企業が外部雇用機会と比較してより高い賃金を支払わねばならなくなることである。
そして全ての企業が他より高い賃金を支払うなんてことは不可能だから、そこで「失業」が生じることになる。
すなわちある会社をクビになり他の会社で同等の賃金をもらうとしても、クビになった時から再就職の間の収入減が生じるのはやむを得ない。
シャピロとスティグリッツは、この点を特に強調している。
つまり高賃金は労働に対する総需要を減少させ、全ての企業が外部雇用機会と比べてより高い賃金を設定できるように「失業が創出」されるのだ。
もちろんこの失業者によって生産されたはずの生産額は、社会的損失になるが、このモデルを特にシャピロ=スティグリッツのモデルと言う。
日本の企業のかつての生産性の高さと勤勉性は、日本には転職機会が乏しく、新卒者が企業にほぼ終身的に雇用されると言う社会状況が、そういう背任を防止するための大きな要因になっていた。
つまりかつてはES(従業員満足度)が高く、また解雇によって失う便益がドでかかったために、日本人は安めの賃金で労働することに不満を持っても、勤勉に働いたということである。
これは「ムラ社会の行動様式がそのまま引き継がれた」という理解でも構わない(拙「インセンティブで考える」参照)が、かなり転職が定着した日本においてどのような賃金体系が妥当であるかは、かなり難しい問題だといえる。
資産効果が大きいと考えれば、効率性賃金α>インセンティブ報酬βということになるのだろうが、、、
今週の・・・
CSとはカスタマー・サティスファクション、 ESとはエンプロイー・サティスファクション、 だったら国民満足度とか国内満足度というのはNSとかDSということになるのかな。