資産所有と均等報酬原理
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たとえばインセンティブを与えなくとも従業員が達成する努力水準をe^とする。
この場合の努力水準は、従業員がクビにならない程度に働く水準になる。
ここで会社が資産を所有している場合、従業員の確実同値額は α+βe2-(1/2)β^2・Var(x2)-C(e1+e2)となるが、この式はβ≧0ならば従業員はe1=0という努力水準を選ぶということを示している。
つまりe1>0なら、従業員はC(e1)だけ損をすることになる。
だから、もし従業員が自分の時間や努力を大事に思うなら、仕事のために本を読んだり勉強したり、あるいは休み時間や休日を返上したりという努力はしない。
つまりe1=0である。
※注: e1は目に見えない努力や結果にすぐ結びつかない可能性の高い努力(掃除だとか日々の勉強だとか) e2はすぐに結果につながるような努力。
となると、インセンティブ強度を強くすると、e1タイプの努力は丸々労働者の損になってしまい、労働者の努力e^の配分はe2にばかり配分され、e1には投入されなくなる。
これでは均等報酬原理に反し、企業の評判を落とすようなことになる。
だからそう言う場合であれば産出量によるインセンティブを与えず(β=0)に、e^を会社の指示によってe1とe2に配分させる方が良いことになる。
(e^=e1+e2) 一方労働者が資産を所有している場合には、確実同値額はリスクプレミアムを差し引いてA(e1)+α+βe2-(1/2)r・Var(x1+βx2)-C(e1+e2)となる。
この労働者の資産とは、自分自身の肉体であったり、知識やスキルと言ったモノだ。
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スポーツ選手は、自分自身が資本
労働者が資産を所有しているというというのはつまり、所有者として行き届いた資産管理の成果を受け取ることができるので、そういう管理に対するインセンティブを持っていると言うことである。
たとえばプロ野球やサッカーのプロ選手は、自分の肉体を資産として所有している。
そう言う場合は肉体の管理を行うインセンティブが生じる。
だから、業績に対してインセンティブを与えても、努力e^を目に見えないe1的努力に配分されるということである。
またIT技術者やバイオ技術者などは、その技能や知識自体が一つの資産となる。
だから、それを維持したり高めたりという努力e1は、企業がインセンティブを与えなくても行われるということである。
だから自前の資産を用いて労働を行う者や独立した請負業者には、インセンティブ契約が大きな効果を上げることになる。
ただそういった資産を労働者や請負業者が所有していると、企業はより高い報酬と良い待遇を約束しなければ、すぐに逃げられてしまう。
社会で不足している技術を持つ技術者や上質の請負業者に対する需要は大きく、より高い報酬を提示する企業が多ければなおさらである。
顧客管理を営業部員に任せているような場合も、顧客は営業部員の「資産」となりうる。
だから、たとえ業績が低めであったとしても十分良い条件で安定的に雇用しなければ、顧客ごと丸々ライバル会社に引き抜かれかねない。
誰が資産を所有するべきかと言う問題はまた後で考えることにするが、インセンティブ契約というのは相当な「諸刃の剣」なのである。