リスク・プレミアム

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 株主が経営者を雇ったり雇用主が従業員を雇うとき、モラルハザード問題が生じる。

 

 つまり雇われている人間(エージェント)が雇っている人間(プリンシパル)の意志や利益に反して、自己利益を図ろうとするのである。

 

 それを防ぐには従業員とインセンティブ契約(歩合給・ボーナス契約など)を結ぶしかない。

 

業績と報酬をリンクさせて、従業員のやる気を引き出すしかない。

 

 だがしかし、これには二つ問題がある。

 

 一つは業績と報酬をリンクすると、従業員に過大なリスク負担を強いることになることである。

 

 好成績が簡単に上がれば問題はないが、変動が激しいと従業員は嫌になる。

 

誰しもがそういう条件下で努力するとは限らない。

 

 そしてもう一つは、従業員にそういうリスク負担をさせると、そのリスク負担分のコストを給与に上乗せしなければならないことである。

 

 というのもたいていの人間は「リスク回避的」で、報酬の変動をあまり好まない。

 

 そんな状況で従業員とインセンティブ契約を結ぶには、それ相応に魅力的な高い報酬を用意しなければ、誰も契約を結びたがらない。

 

 成功したときの報酬が失敗したときの報酬を充分埋め合わせ、なおかつ普段も十分豊かな暮らしができなければ誰もそんなことはやりはしない。

 

 そういうわけで、固定給だとクビにならない程度にしか従業員は働かず業績は悪化するし、またインセンティブ契約だけでは労働コストがかさみ、収益率は悪化する。

 

 あるいは賞金稼ぎのような従業員ばかりによって「逆選択」され、雰囲気も悪くなったりする。

 

 だから組織や企業は、適度なリスク負担とインセンティブを従業員に与えられるような制度を考え、企業の経営にプラスにせねばならないことになる。

 

 だがそこにはまず、客観的な業績を判定するのを妨げる「不確実性の発生」という問題がある。


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不確実性下での意志決定と金銭的リスクの評価

 不確実性下ではまず、二つの要素が問題になる。

 

 それは「収益の期待値(あるいは平均値)」と「所得の分散(ばらつき)」である。

 

 たとえばある事業で、以下のような見通しであったとする。

 

<例>六分の一の確率で、収益6,000ドルが得られる。

 

三分の一の確率で、収益3,000ドルが得られる。

 

二分の一の確率で、収益ナシ。

 

 この例での平均(mean)あるいは期待値(expected value)は、 m=(1/6)*6,000+(1/3)*3,000+(1/2)*0=2,000ドルで、分散(variance)は、 v=5,000,000である。

 

 因みに分散の計算式は省略するが、所得が確実で一定であれば、分散は0になり、変動が激しければ値は大きくなる。

 

 さてここで基本的な仮説として「大半の人間はリスク回避的である」という仮定を置くことにする。

 

 つまりたいていの人は同じ給与水準であっても確実な収入を好み、リスクの大きな報酬体系に対してはさらにいくらかのプレミアムを上乗せしなければ、そういう不安定な契約を呑まないのだ。

 

 そしてそれは逆に言うと「変動する報酬より確実な収入が得られるなら、人間は安月給でも働くのだ」ということである。

 

リスクプレミアム計算

 

 さてここでそれなら一体いくらくらい安くても人間は働くのだろうか? 変動する所得より確実な所得を得るために支払っても良い(つまり給料が低くてもよい)と考える金額を「リスク・プレミアム」と呼ぶ。

 

・リスク・プレミアムの近似式:I^を変動する収入(Income)の平均(期待値)r(i^)を平均I^に対する、絶対的リスク回避度(回避係数)Var(I) をIの分散とすると、 (1/2)* r(I^) * Var(I)によって、リスクプレミアムを計算し近似して考えることができる。

 

人々は平均所得額I^からこの値を引いた額を給与として受け取ることになる。

 

つまり、 I^ - (1/2)* r(I^) * Var(I)で、これを「確実同値額(certainly equivalent)」という。

 

 この式はリスクプレミアムが、リスク回避係数に比例するという想定で立てられている。

 

 なので、不安定な収入に耐えられない人間のrは大きくなる(その結果給料は安くなる)。

 

 一方、不安定でも良いと考えている人間のrは0である(その時給料は最大になる)。

 

 r=0の場合を特に「リスク中立的」と言う。

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