市場金利と借り手の質の問題

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たとえば銀行のモデルを考える。

 

世の中に二種類の借り手、すなわちAタイプとBタイプの借り手がいるとしよう。

 

そして銀行はそのタイプを見分けられないものとしよう。

 

このモデルでの両タイプの特徴は

  • Aタイプの借り手:100万$を借り入れて、確実に110万$を回収する。
  • Bタイプの借り手:100万$を借り入れて、二分の一の確率で90万$かまたは130万$を回収する。

とする。

 

 さてこの時Aタイプの借り手の回収期待値はもちろん110万ドルである。

 

 そしてBタイプの期待値は、 90万$*0.5+130万$*0.5=110万$である。

 

 だから、両タイプの回収期待金額値は、ともに110万$になる。

 

 そして両タイプの担保(手持ち資産)は90万$で、それ以上は持っていず、そしてAタイプの借り手の方がが多いと仮定する(そんなにいい儲け話ばかり無いしね)。

 

で、ここで「逆選択」がおこらず、競争によって貸出金利が5%になったとすると、Aタイプの借り手もBタイプの借り手も融資を希望する。

 

 だから、銀行は両方のタイプに資金を融資し、利益を上げることができる。

 

ところが金融が逼迫し、銀行の資金コストが上昇して金利を10%に引き上げたとしよう。

 

そうすると、健全なAタイプの借り手は積極的には融資を希望しなくなる。

 

 金を借りても儲けが出ないのだから、積極的に借りるインセンティブはそこには存在しない(当たり前だ)。

 

しかしもう一方のBタイプの借り手にとっては、

  • 事業が成功 →→ 130万$回収 →→ 20万$の利益
  • 事業が失敗 →→ 銀行に90万$支払うだけ →→ 差し引き0 (損益10万$は銀行が被る)

ということだから、融資を希望するインセンティブが充分存在する。

 

つまりここで「逆選択」の問題が起こってしまうのである。

 

そうすると銀行の収益は5%の場合と比べて一気に悪化する。

 

理由は「借り手の質が悪化するから」である。

 

 銀行だって商売である。

 

 金を返してもらえない可能性の高い客ばかり相手にしていれば、当然収支は悪化するし、経営もかなり不安定なもの(すなわちハイリスク=ハイリターン)になる。

 

 ところが市場金利の水準が堅実な商売の利回りより高くなってしまうと、こういう風な投機的なバクチ的な借り手にばかり金を貸さねばならなくなってしまう。

 

 これは「保険支払金を高く設定すると、加入するのは事故を起こす確率の高い借り手ばかりになる」というパターンと似ているが、保険支払金が保険会社によって決められ得るものであるのとは異なり、市場金利の水準は一銀行には決められない点が違う。


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逆選択とバブル経済

 さてここで少し重要な話だ。

 

 しかし、「逆選択」がある状態になると、市場で取引される財の数量や参加者は一気に少なくなるのである。

 

 今回のモデルでも、市場金利の水準が堅実な商売の利回りより高くなれば、たくさんいる堅実な借り手であるAタイプの借り手は一気に金を借りなくなる。

 

 そして金を借りてくれるのはBタイプの借り手しかいなくなる。

 

 だから、銀行の融資総額は一気に減ることになる。

 

 だが融資総額が減れば当然銀行の手にする儲けの期待総額(期待利益)も減る。

 

 だから、銀行の経営状態は悪化してしまう。

 

 経営が成り立たなければ経営者は責任を問われる。

 

 だから、何とか融資総額が減るのを防がねばならない。

 

 が、堅実な借り手であるAは、「市場金利水準より低い利率でしか金を借りてくれない」。

 

 仕方がないから、替わりにバクチ打ちの多いBタイプの借り手にその分の金を貸し付けて、貸しだし総額の水準を維持するという方策をとったりする。

 

 もちろん別の方法(Aタイプの借り手に対する信用割り当て:最後に説明)もあったのだ。

 

 しかし、しかしそうして金を借りてくれるBタイプの借り手にどんどん金を貸していったのが、「バブル時代」の日本の銀行の行動であった。

 

 そして当時の銀行は、さらに火に油を注ぐようなことをやりだした。

 

 すなわち100万円の価値のある担保(土地)をとって、それを120万円の価値があるものと評価して100万円貸し出す、、、というような、とんでもないことをやりだしたのである。

 

 借り手はその100万円を使ってまた100万円の土地を買い、それを担保にまた100万円を借りる、、、、 そしてその100万円をまた土地に投資し、それを担保にまた100万円を借り、、、、それをまた土地に投資し、、、 つまり最初に担保に差し出す土地があり、それを土地に投資すると言うのであれば、銀行は無限大の金を貸し出していったわけである。

 

 当時のS銀行の頭取など「金を貸し出さねば馬鹿だ」と公言し、そうして各支店の支店長に命じてどんどん金を貸し出させたくらいであった。

 

 重大な逆選択が生じているというのに、さらに金を貸し込むなんて、、、、、 そういうわけで日本の銀行は、どんどんとんでもない状態になっていったわけである。

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