デザイン・アトリビュート
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ここでは、原則的には価格システムが利用可能で厚生経済学の基本定理が妥当するにもかかわらず、コーディネーションのために他のメカニズムが用いられている状況に焦点をあてる。
我々が扱うコーディネーション問題とは、「資源配分問題(リソース・アロケーション・プロブレム)」である。
資源配分問題とは、一定の資源を様々な用途に配分する問題である。
あらゆる経済的及び業務上の重要な問題は、資源という言葉をできるだけ広く解釈することにより、資源配分問題として分類できる。
デザイン・アトリビュート(デザイン属性)
デザイン属性とは、
- (1)最適解の先験的な情報が存在しており
- (2)全体パターンのわずかな特定化の誤りなどに比べて、変数同士を正しく結びつけない事による損害が極めて大きい。
と言った問題である。
こう書くと何だか良くわからないが、ぶっちゃけて書くと「以前からある仕事で、一番いい組合わせや手順がわかっている」ような仕事で、「手順や組合わせを間違うと、正しくやった場合と比べてはるかに大きなロスが出る」という問題があるとき、「この仕事はデザイン属性を持つ」と言うわけである。
デザイン属性を持つ問題は、さらに「シンクロナイズ問題」と「割り当て問題」の二つに分類することができる。-
シンクロナイズ問題
(例:ボート漕ぎ)
ボートレースでたくさんの漕ぎ手がバラバラにオールを漕ぐと、ボートはうまく前に進まない。
コックス(ボートの先頭に後ろ向きに座ってメガホンなどでかけ声をかける役割の人)が他のクルーに適切な指示を出すことで、ボート全体のコーディネーションをはかることができる。
各クルーの活動をシンクロナイズ(協調)し、個々の努力をよりいっそう効果的にできるという点が「利点」である。
国家が国策を実行するために、限られた資源や人材を特定の分野に集中させるのも一種のシンクロナイゼーションである 目的がハッキリしている場合、このようなシンクロナイゼーションは大きな効果を生む。
すなわちこれが、(1)最適解の先験的な情報が存在しておりということであり、ソ連などの共産主義国の工業化では共産党幹部がコックスを務め、国全体をシンクロさせようとしたのだと考えればわかりやすい。
ただしこの「シンクロナイゼーション」による解決は、各クルーの情報(つまり誰がどれだけ疲労しているとか)などはコックスに伝わりにくいから、コックスの十分な技量が必要になる。
割り当て問題(アサインメント・プロブレム、例:救急車の配車)
達成すべき一つ以上の任務に対し、それに人間を割り当てる場合にも、シンクロナイズ問題と同じような問題が起こる。
それは(1)ムダに努力が重複しない(2)各任務が確実に実行されることを保証することである。
たとえば救急車を価格システムで配車するシステムを考えてみよう。
つまり緊急を要する事故現場に高い価格をつけ、比較的緊急を要さない事故現場に安い価格をつけて救急車を呼び寄せるというようなシステムである。
世の中に充分たくさんな「救急車屋さん」が存在し、そして世の中に救急車が必要な患者がたくさんいるならば、こういうシステムも何とかかんとか成立するだろう。
言ってみればタクシーみたいなものである。
だが実際にはそういう商売が存在すれば、高い価格の事故現場に複数の救急車が集まったり、安い価格の場所に一台も救急車が来なかったりすること起こりかねない。
そうなると「救急車が来なかったためにけが人が死亡!」なんてことが続出しかねない(社会問題である)。
つまりこういうサービスでは、価格システムより全体を統合して過不足なく配車するシステムの方が、全体としてのサービスの質を向上させることができる。
もちろんこれは、企業内の複数の事業部が連携しなければならないような事業でも同じである。-
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組織内に解がない場合もある
デザイン問題と組織の機械的手順
デザイン問題では、価格による分権的統制より「中央統制」の方が魅力的になるが、しかし同じ問題が繰り返し現れるような場合は機械的な手順さえ決めておけば、わざわざ中央統制によらなくても問題は起こらなくなる。
要するにAという問題が起こった場合αという解決策を使い、Bという問題が起こった場合βという解決策を用いると言うことが多くの者に理解されていれば、コックスや配車係がいなくても現場の情報だけで全体が効率よく動ける、、、ということである。
そうすると親方が怒鳴らなくても従業員は勝手に始業時間にやってきて、勝手に仕事を始め、勝手に後片づけを行い、仕事が終われば帰る、、、というシステムができあがる。
イノベーション(技術革新)属性
現場の人間に入手できない情報に最適な資源配分が依存する場合、高度に分権化した意志決定システムは十分な成果を上げることができない、、、という問題も、価格システムでは解決しにくい。
たとえば全て職人芸で商品を造るラインがあったとしよう。
このラインは各工程をそれぞれの職人が受け持っており、過不足なく仕事が円滑に進んでいる。
ところが造っている商品があまり売れなくなってきた。
別の企業が代替的な新しい商品を出してきて、職人ラインで作る商品は大して売れなくなってしまった。
仕方がないので競争力のある新しい商品を造ろうと考えるのだ。
しかし、それを作るにはコンピュータ制御の旋盤(NC旋盤)や、新しい樹脂の部品が必要だという。
このような場合、従来の職人では新しい商品が作れない。
新しい部門に高い価格をつけて価格システムを利用しようとしても、技術習得には様々な障害が生じる。
だから、上手く行かない。
新製品の導入、新市場への参入、或いは新たな生産方法の採用と言った未経験の事業を組織が行おうとする場合、このようなイノベーション属性(イノベーション・アトリビュート)を持ったコーディネーション問題がごく普通に登場する。
新たなシステムには新たなコーディネーションが必要だから、そのための情報を外部から取り入れなければならない。
(つづく)
今日のまとめ
まとめ コーディネーション問題は、「デザイン属性」と「イノベーション属性」とに分けられる。
デザイン属性とは、各変数の結び付け方にすでに最適解が存在していて、その結合方法でなければ大きなロスが出るような種類の問題である。
デザイン属性には「シンクロナイズ問題」と「割り当て問題」という二つの問題があり、シンクロナイズ問題は全体が一つの目的のためにシンクロしなければならないような場合のこと(ボート漕ぎのコックスとクルーのイメージ)で、割り当て問題とは救急車などを的確に現場に配車するような、仕事が重複せずかつ必ず全て成し遂げられるように任務を割り当てる問題である。
ボートはクルー全体が協調して運動(つまりシンクロ)しないとまっすぐ速く進まない。
また救急車は、一つの現場に何台も必要ないが必ず一台は必要である。
それがうまくいかないと大きな損失がでる。
そういう場合が「デザイン属性」である。
一方の「イノベーション属性」とは、新たに新しいシステムなどを導入する場合、現場に必要な「新しい情報」がうまく伝達されない。
新しいコーディネーションが必要なのだ。
しかし、それがうまく構築されない。
そういう問題である。