古典派の労働市場モデルとリスク・プレミアム

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 古典的な労働市場モデルでは、労働者の所得は激しく変動する。

 

 というのも古典派労働市場モデルは、他の様々な市場モデルと相関関係を持つからだ。

 

 例えば関わっている商品の価格や取引量(個別の需給関係)、経済全体の景気(マクロ・バランス)、そして時代が求めるスキルとそのスキルを持った人間であるかどうか(質的均衡)、などに連動して動き、これらに大きな影響を受ける。

 

 だから、常に労働需要と供給との均衡点が大変動し、結果、労働報酬が大きく変動してしまうということになる。

 

 そんな風に労働報酬は大変動するにも関わらず、たいていの場合労働者は非常に「リスク回避的」である。

 

 だからこそ企業は労働者を労働市場の均衡報酬(労働の需要と供給がちょうどバランスする報酬水準)よりも、はるかに安い賃金で労働者を雇うことが可能になる。

 

 労働者は報酬の変動リスクから回避するために企業にリスク・プレミアム(報酬の変動リスクを負うコスト)を支払い、企業はその分儲けを増やすことができる。

 

 簡単に言えば「会社はあなたの給料の変動リスクを担うから、その分の保険料(手数料)は給料から差し引きます」と言うわけである。

 

 だがしかし、実際に企業が負うリスクを誰が負担するのかと言えば、結局は企業の物的資本を所有する多くの株主である。

 

 だから、企業はそう言う意味で「リスク中立的」であると言える。

 

 つまりまとめてみると企業が従業員のリスクを回避する場合、・従業員 ≒ リスク回避的 企業の業績の変動によって毎月違った額の給料をもらうより、毎月決まった額の給料が欲しい。

 

 リスク負担を企業にしてもらうのと引き換えに、リスクプレミアムとモラルハザード防衛の権限を雇主に与える。

 

・企 業 ≒ リスク中立的 企業の業績の変動のリスクは基本的に企業が受けるが、最終的なリスクは株主に負ってもらうことになる。

 

 企業としてはリスク回避的な従業員からリスクプレミアムを受け取ることになり、残余のコントロール権をも持っていることになるから万々歳である。

 

と言うことになる。

 

 つまり企業が従業員をリスクから隔離することは、企業にとっても従業員にとっても利益なのである。


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不完全なリスク回避

 だがしかしそれは、株主にとっては全く有り難くない話である。

 

 投資した金で企業が業績を伸ばしても配当は低く抑えられ、経営に失敗した場合は自分の資産が消えてなくなるのだから当然だ。

 

 だから健全な株主は常に企業の経営者や執行役員の行動を監視するインセンティブを持つことになる。

 

 自分が投資している企業の経営者が少しでも不審な動きを見せれば、即刻経営者を解雇する場合だってありうる。

 

 そしてまた企業が従業員をリスクから分離するのにも、限界がある。

 

 様々な外部状況の変化や自社の業績悪化などによって、従業員に対してリスク負担を求めることがある。

 

 リスクの分離というのは「レイオフ時にも収入補償をする」ことも含んでおり、離職時に退職金を支払うという意味もある。

 

 だから、企業の業績が傾くとそのようなこともできなくなる。

 

 要するに企業は従業員から受け取ったリスクプレミアムをそういう方面に使うだけだから、全体として会社が傾いたとき、リスクを従業員から隔離しておくことができなくなってしまうのである。

 

 そういうわけで業績が長期的に悪化した場合、企業は従業員に対して「賃下げ」を求めることになる。

 

 そして協議の上賃下げを行ったとしても、リスク完全隔離状態では有能な従業員には他の会社に転職するインセンティブが生じ、一方無能な従業員はクビにすることができない。

 

 つまり企業の人的資源は徐々に枯渇し、経営は行き詰まる。

 

 そういうわけで結局企業は完全に従業員をリスクから回避させることはできないということになる。

 

 

今回の、、、

 リスク回避的とは、「給料は安めでいいから、毎月一定の金額の給料が欲しい」「たとえ高い歩合をもらえるとしても、変動には耐えられないから毎月決まった金をくれ」という価値観のこと。

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