所有者の監視インセンティブ
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企業の重要な決定において、株主の利益やその他の利害関係者の利益が代表されるようにとりはからうのが「取締役会」の元々の仕事のはずであった。
取締役会は株主の利益が損なわれないように経営者を取り締まり、時には経営者の首をすげ替える、、、そういう役割を持っていた。
しかし実際には取締役会自体が、所有者(株主)の利益をさらに損ねてしまう場合が殆どである。
というのも取締役会の行動を規律づける者や、監視をする者が実際には殆ど誰もおらず、そのため取締役会は所有者の利益を守るという動機付けやインセンティブを与えられていないからである。
例えば個人投資家に代表されるような小株主は、一つの企業の株式をわずかしか持っていない。
だからたとえその投資家がある企業の株式を数パーセント所有していて、その企業の経営陣を監視して配当を増やさせたり株価を高くしたりしても、受け取る利益はほんのゴミ程度である。
高々数千円か数万円の金を得るために、何十万もの金をかけて調査を行ったり訴訟を起こしたりというのでは、バカらしくてやっていられない。
それならそんな企業の株式など売っぱらって、もっと成長しそうな企業に投資を行った方がマシである。
だから個人投資家などに代表される小株主には、取締役会を監視するインセンティブは殆どないと言って良い。
では大株主ではどうか。
1つの企業の株式を数十%所有してる大株主には、取締役会を監視する強いインセンティブがあるはずである。
例えば日本の企業では、関連会社がお互いの株式をお互いに持ち合うということがよく行われている。
また親会社が子会社の株式の大株主であったり、銀行や生命保険などの機関投資家が大株主である場合が多い。
この場合の大株主は、企業の取締役の行動を監視する強いインセンティブを持っている。
というのもその企業の収益や株価が、自企業の利益に直結するからである。
例えば株式を持ち合いしている関連企業は、相手企業の業績が伸びなければ自企業の業績も伸びないという関係にある。
だから、一方の経営者がもう一方の経営者を相互監視するという強いインセンティブが生じる。
また銀行や生命保険などの機関投資家にとっては、自らが大株主である企業が利益をあげてくれないからといって株式をすぐに売却すると株価が値下がりし大損してしまうわけだから、大株主である権利を行使して自らの代表を送り込み無能な経営者をクビにするというインセンティブを持つ。
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大株主でも、企業の経営体質を変えることはできない
だが大株主であったとしても、企業の経営体質を変えることはできないことは多い。
例えばアメリカの大富豪であるロス・ペローは、自社をゼネラル・モーターズに売却した後ゼネラル・モーターズの大株主となって取締役に就任したが、会社の方針について会長のロジャー・スミスとことごとく対立し、GMを改革することはできなかった(結局彼はゼネラル・モーターズの株式を売却し、同社を去った)。
またブーン・ピケンズは、トヨタ自動車のライトを作っている小糸製作所の株式を26%取得したが、同社の会計帳簿を見ることさえ拒否され、訴訟では勝ったが同社の経営には何の影響も及ぼすことができなかった。
つまりこの場合でも株主の取締役会への働きかけは成功せず、その権利はごく限られた狭い範囲のものでしかなかったのだ。
そして大株主による経営者の監視が不十分な水準にとどまるのは、フリーライダー問題があるからだと考えることもできる。
というのもある企業の株式を30%所有している株主が、個人の費用で取締役会を追求し配当や株価を上げさせたとしても、その努力の70%は他の株主が受け取ることになる。
フリーライダーがたくさんいると、いくら努力してもそうして努力はザルの目からこぼれ落ちてしまうことになる。
だから、株主の監視努力は低い水準に止まらざるを得ない。
だからこの問題をフリーライダー問題であると見た場合に、問題を解決するひとつの方策としてLBO協会(レバレッジド・バイアウト・アソーシエーション)が設立された。
(レバレッジ:企業の資本に対する自己資本の比率のこと) つまり業績がいまいち悪くしかも経営者や取締役会が株主の利益を損ねているような企業があった場合、その企業の大株主達が集まってさらにその企業の株式を買い上げ、取締役会に対する監視圧力を強めよう言う仕組みである。
場合によってはファンドなどを発行してLBO協会で株式の半分以上を買収してしまい、取締役会に代表を送り込んでしまおうという、そういう考えである。
結局企業の経営者のモラルハザードを防ぎ、経営者に何らかのインセンティブを与えるためには、経営者の生殺与奪権を確保するしかないようである。