取引費用の種類

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 ロナルド・コースは、取引には「取引費用(トランザクション・コスト)」なるコストが必要で、企業や組織の形態はその「取引費用」が節約される形に決まってくる、というようなことを述べた。

 

 つまり企業内部で調達した方が安く付く財やサービスの取引は組織内で行われるようになり、外注の方が安く付く取引は組織外で行われる、、、その結果その組織の形が決まってくる、と言うのである。

 

 しかしコース自体は取引の形態についてはあまり探求を行わなかった。

 

実際の取引費用とは、どのようなものだろうか。

 

調整費用(コーディネーション・コスト)

 

 取引費用とは具体的に言えば、組織のシステムを運営する費用であったり、コーディネーションと動機付けを行うのに必要なコストである。

 

すなわち「調整費用(コーディネーション費用)」と「動機付け費用」である。

 

調整費用とは取り引きする相手を捜し、取引条件をすりあわせるための費用で、サーチング・コストやマッチング・コストがそれにあたる。

 

 これには案外大きなコストがかかるもので、株式市場などのかなり効率的な取引ができる場所でも、取引所の運営には建物費や連絡コスト(電話代などの通信費)、職員・証券会社のディーラーなどに支払う高額の給与など、実に膨大なコストがかる。

 

 これは結婚相手を選ぶために結婚相談所に高額の会費を納めたり見合いに時間をかけたり、その後やれデートだ、やれドライブだ、やれ映画だといったように多額のお金と長い時間をかけるといったようなものである。

 

 しかもお金と時間をかけたからと言って、必ず取引が成立するとは限らないわけである。

 

 だから、本当に取引費用とは無視できないものである。

 

 また後でも登場するが、このコストが膨大であればあるほど、市場の失敗が起こりやすい。

 

 すなわち自分の取引条件に合った相手を捜す費用が高く付くために、市場均衡に達する以前でサーチングを諦め、取引条件を譲歩して取引してしまうのだ。

 

 また企業がよく行う「嗜好調査」や「宣伝」「市場調査」も調査費用の一種である。

 

 すなわち何かの財やサービスを生産する前に、それを買ってくれる顧客がどれくらいいるか前もって調査するのである。

 

 だから、これも確かにサーチング・コストであるし、宣伝もその財やサービスを買ってくれる買い手を捜すためであるから立派なサーチング&マッチング・コストである。

 


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動機付け費用

 取引費用のもう一つは「動機付け費用」である。

 

 動機付け費用とは取引を上手く行うための費用であり、取引相手に取引契約を守らせるための費用である。

 

 動機付け費用は二つに大別され、その二つとは1)情報の不完備と非対称にかかわる費用2)不完全なコミットメントに関する費用である。

 

 情報の不完備とは、人間が全知全能の神とは異なり限定合理性をもった存在であることからおこるもので、簡単に言うと「取引にかかわる双方が、取引に関する全ての情報を持っているわけではない」ということである。

 

 そして情報の非対称とは「取引に大きな影響をもたらすような情報を、取り引きする双方が持っているとは限らない」ということである。

 

 片方が一方的に有利な知識を持っている場合、相手が誠実に行動しているかどうか或いは相手の言っていることが正しいかどうかを確かめるための費用が必要になる。

 

 たとえば車のラジエータが故障しても、それがラジエータごと取り替えねばならない故障か、それとも部品を一部交換すればよい故障であるかということは、ドライバーには判断が付かないことが多い。

 

 整備士の判断が正しいかどうか確かめたり、誠実に行動しているか、或いは機会主義的行動を相手にさせないための余分な費用がつまり情報の不完備と非対称に関する費用である。

 

 また不完全なコミットメントにかかわる費用とは、取引相手が契約を守らないかもしれないと考えて契約を結ぶことをためらうのを説得する費用である。

 

 たとえば何かで失敗した人は、もしかするとその失敗に懲りて新たな取引をしないかも知れない。

 

 悪い取引相手にばかり出会って何度もだまされれば、そういうことが起こる。

 

 しかしそれにもかかわらず取引をした方が双方にとって明らかに利益がある場合がある。

 

 その時、取引に懲りた相手に取引をしてもらうためにかける費用がつまり「不完全なコミットメントに関する動機付け費用」であり、取引相手に契約を守らせるために支払う成功報酬や業績給などがそれにあたる。

 

 パチンコで負けて懲りてパチンコをしなくなった人に、またパチンコをしてもらうためにパチンコ屋が努力するコストなんかもこれかもしれない(ちょっと違うか?)。

 

(つづく)

 

 

 

今日のまとめ

 

 

 

 取引費用には「調整(コーディネーション)費用」と「動機付け費用」がある。

 

 調整費用とは取引相手を捜したり取引条件を調整したりする費用のことで、サーチング・コストとかマッチング・コストと呼ばれる。

 

 市場調査や嗜好調査、広告や宣伝にかける費用もこの費用に分類される。

 

 動機付け費用には 1)情報の不完備と非対称にかかわる費用と2)不完全なコミットメントに関する費用がある。

 

 情報の不完備と非対称にかかわる費用とは、取引相手が誠実に行動しているかどうか、或いは妥当な判断をしているかどうかを確かめる費用であり、相手のモラル・ハザードを阻止するための費用である。

 

 また不完全なコミットメントにかかわる費用とは、相手に契約を守らせるために支払う費用であり、失敗に懲りて取引をしなくなった者に再び取引を再開させるための費用である。

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