取引の次元
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取引と一口に言っても、様々なバリエーションがある。
単純に日常品を売り買いするのも取引だし、雇い主が従業員を雇うのも労働力の取引である。
前回取引費用には「調整費用(コーディネーション・コスト)」と「動機付け費用」があると書いたが、これらの費用を決定するのも実はそれらの様々な取引の性格によるのである。
取引費用を左右する要因について書いてみよう。
1)特殊的投資が必要な取引かどうか?
取引には特殊的な投資が必要な場合とそうでない場合がある。
すなわち街のどこでも買えるような商品は、たいてい汎用性のある材料と汎用性のある器具を用いて作られている。
たとえばパン屋を開くのにわざわざ広い土地を手に入れ大きな工場を建てる必要はない。
とりあえず業務用の大きな冷蔵庫とパンを焼く釜さえあれば何とかなる。
そういった業務用の冷蔵庫で他のものを冷やせないわけではない。
パンを焼く窯を使って他のものができないわけではない。
だからこれらの器具に投資する場合、取引に失敗してお客さんがパンを買ってくれなくても、他の使い道もあるし、また別にパン屋を始めたい人に売り渡してもいいわけである。
だからこのような場合、取引費用は小さなものとなるだろう。
簡単に言えば、パンの原料と人件費と機材などの減価償却費に少しパン屋の儲けを上乗せした程度でパンの売値が決まってくる。
だが戦闘機の尾翼を作ったり、ロケットのエンジンを作ったりというための投資は非常に特殊的な投資になる。
すなわちこのような投資は巨額な投資であるし、十分な受注が見込めなければ投資する以前で計画はストップする事だろう。
投資したはいいが注文を思ったほど受けられなかったり、それをネタに造った商品を安く買いたたかれたりしたら大変である。
つまりここで一種の「不完全なコミットメント問題」が生じるわけで、もし本当に注文を出す側が戦闘機の尾翼やロケットのエンジンを必要としていたなら、特殊的投資を行う企業に対しその懸念をうち消すための費用を計上しなければならなくなる。
こういう場合にこの取引には大きな取引費用が必要になり、それは価格に跳ね返ってくることになる。
2)頻度と継続期間
取引には、同じ当事者同士で何度も繰り返される取引と一回だけの取引がある。
繰り返される取引には評判や信頼といったものが出来上がり、それによって取引の確実性が増し、取引を相手に履行(実行)させたり相手を調べたりするための費用があまり必要でなくなる。
すなわち取引コストが節約されるのである。
だがしかし一回きりの取引であれば、取引相手がどの程度誠実な取引を行うかはわからない。
代金だけ受け取って不良品を掴まされたり、価値のないものをはるかに高額な対価を払わされたりする場合だって考えられる。
そうなると取引相手を調べたり、取引条件が妥当であるかを調査するための費用がかかる。
だから、時間も金もかかることになる。
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取引費用を左右する要因その2
3)不確実性と複雑性
将来が不確実でまた複雑な取引の場合、契約で可能な限り将来のハプニングに備えて細かく取り決めを行わなければなる。
そのためにはもちろん調査なども必要であるし、それに対する対応も交渉しなければならない。
そのような交渉に要するコストがたくさんかかる事になるのだ。
4)業績測定の難しさ
取引相手が契約をちゃんと守ったかどうか測定できない場合もやはりコストがかさむ。
つまり結果が上手く行ったかどうかを判定できなければ、取引相手が手を抜くことは充分考えられる。
そうなるとモラル・ハザードや不完全なコミットメント問題の発生は避けられず、そのために余分な費用が必要になってくる。
5)デザイン上の連結性
たとえばパソコンを作るために部品会社と取引するとしよう。
この場合、部品は決まった日時に決まった量だけしか必要でない。
一台のパソコンを作るのにモニター、キーボード、CPUなどは一個ずつでよい。
これらの部品を何時・何個ずつ調達するか調整するために、コーディネーション費用がかかる。
すなわちそこに調整費用が発生し、調整費用は取引費用の一つであるから取引費用がかかっているというわけである。
(つづく)
今日のまとめ
取引費用の大きさは、取り引きされる財やサービスの性質によって影響を受ける。
その取り引きが特殊的な投資を必要とするかどうか、一回きりの取引か何度も繰り返され長い期間に渡る取引かどうか、確実性はどうか、相手が取引を履行したかどうか判定できるかどうか、デザイン上の連結性があるかどうか。
そういったことで取引には実費以上に多額の取引費用を支払わねばならないことがある。