終身雇用と企業戦略
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かつて、日本の大企業に就職した者は、企業と一生運命を共にすることになった。
それは言ってみれば企業という「ムラ共同体」に参加するというようなものだった。
ムラに必要な技術を習得した者に対しては高い報酬が与えられ、あまり必要でない汎用能力に対しては評価が与えられないということであった。
だから企業は安心して従業員に対して、様々な助成を行って従業員の能力を高めようと務めてきた。
これが企業特殊的な人的資源に対する投資となった。
そしてそういう教育や訓練を受けた者は転職せず、会社に残って企業のために働いた。
技能を高めた従業員の転職率が低いことが、さらに従業員の汎用能力を高めるような投資にも融資を行うことを可能にした。
企業特殊な知識の教育やスキルアップのために、企業がお金を出すのは、ある意味仕方がない話ではある。
たとえば原発で働く労働者は、原発の知識やシステムを学ばないといけないが、そういうことを教育してくれる大学は少ない。
理屈自体は大学で学べても、原子炉の運用となると、ホントに限られた大学でしか研究されていない。
こういう特殊な技術やスキルは、企業自体が研究施設や訓練施設を作って、従業員に教育を施さねばならない。
しかしそれ以外の営業や企業運営などと言った技術やスキルは、一般の大学やMBAで学ぶことができるため、企業が特にそのために教育資金を提供することはない。
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転職市場が発達していなかったからこそ、企業が人的投資できた
企業特殊的でない人的資本の形成のために企業が金を出すのは、アメリカやヨーロッパでは行われていないことだった。
汎用的な能力は、どこでも使えるわけだから、企業が教育を施した後に転職されたら、その教育投資は無駄になってしまう。
しかし日本の場合は、転職リスクがあっても一般の従業員を教育して、スキルを高めると言うことを行った。
というのもかつての日本では、大企業を辞めた場合、中小企業しか再就職の機会が無かったからである。
いくら大企業で働いていたからと言って、高給を支払う体力が無い中小企業に転職しても、給料は上がらなかったからだ。
そのことがさらに日本の大企業に特有の「ジョブ・ローテーション」を可能にした。
汎用能力を持つ者はたいていの部署で仕事をこなすことができる。
だから、仮にある技術者の持つ技術が陳腐化しても、その技術者を他の部門にコンバートすることができる。
ある分野にしか能力を発揮できない労働者であれば、必要がなくなれば解雇するしかなくなるわけであるが、汎用能力があれば配置転換は容易である。
そういうわけで日本企業の「柔軟構造」というものができあがっていったし、各部門をローテーションして全体像を知った者が管理職や役員になれば、不要なインフルエンス活動やインフルエンス・コストも削減されることになる。
かつての日本企業の戦略はそうして各部門で補完性を高め、一貫した行動をとっていたために、非常に強かったのだ。