動機付けの重要性と契約の不完備性
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今回からは経営者や労働者に「やる気」を出させ、かつ、「組織に損害を与えない」ようにするための様々なシステムについての話です。
議論を単純化するためにここでは前提として「人間は、自分自身に利益になると認めた事しか行なわない」という仮定を置いています。
そして「人間は互いの利益を認識し合い、互いの利益増大の為に行動の修正に合意するという協定がつまり「契約」で、他人に対して契約を遵守するように期待する」としています。
動機付けの重要性
ここまでは主にコーディネーションの問題を取り上げたが、ここからは組織に属する各人に対する「動機付け」の問題を取り上げる。
復習ではあるがコーディネーションの問題では、
- 何が行われるべきであるか?
- どのようにしてそれを達成すべきであるか?
- 誰が何を行なうべきか?
という問題が重要であり、さらに組織内のコーディネーションにおいては、
- どのような情報のもとで、誰が意思決定するか?
- 必要な情報がどうやったら確実に必要な部門に伝達できるか?
- その為にどのようなコミュニケーション・システムを編成すべきか?
という問題が重要であった。
しかしこの問題が解決され、いかに上手く組織や生産計画をコーディネートできても、各部門に属する各人がそれをちゃんと実行してくれなければ何にもならない。
組織に属する各個人にそれぞれのポジションの役割をしっかりと認識させ、各人に組織全体として意味のあるような行動をうまくとらせるために「動機付け」と言うモノが必要となるわけである。
ではなぜ動機づけ問題が生じるのだろうか。
それは結局まず「各個人の私的な利益が、他人の利益やその個人の所属するグループや組識の利益、あるいは社会全体の利益と普通合致しないから」ということだろう。
個人としては、できればあまり働かずにたくさん報酬をもらいたい。
休みもたくさん欲しいし、役得も欲しい。
地位も欲しいし、名誉も欲しい。
だが組織の側から見れば、組織に属する個人に生産性に見合わない高い報酬を支払ったり高い地位を与えれば、大損である。
少なくとも賃金や地位に見合う分くらいは働いてもらわなくては、計画合理性もあったモンじゃない。
そう言う風に各個人と組織の利益はなかなかうまく合致しないということが、動機付けの必要な第一の理由である。
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完全・完備契約
さて用意周到に作られた契約が存在するとすれば、動機づけは必要でない。
ここに動機付けが必要なもう一つの理由が存在する。
用意周到に作られた契約には、あらゆる将来の状況に対応して契約当事者双方が何をすべきであるか書かれているのである。
だから、そんな物は必要ないはずであるからである。
こういう理想的な契約を特に「完備契約(コンプリート・コントラクト)」と言うが、このような契約を結ぶことはまず不可能であろう。
というのも完備契約を作って合意しそれを制定するためには。
1)契約を結ぶ当事者が、それに伴って発生する可能性のあるあらゆる事態について知り、それに対する行動や支払いを前もって決定し、それを正確に記述できる。
2)そして事後に何か起こったのか実際に双方に確認できる。
3)考えられる事態に最適な行動が何か、そしてそれに伴う支払いがいくらかを決定し合意する能力が契約当事者双方にある。
4)契約締結後、当事者が進んで契約遵守をするか。
後日契約のやり直しが行われるとすれば、最初の契約を当事者は正確に遵守しなくても良いことになる。
そうすれば次の契約も遵守されない可能性が出て来る。
また契約が遵守されているかどうかは当事者が自分自身で判断できなければならない。
さもないと当事者は自分が契約を遵守しているかどうか判定できず、すすんで契約を遵守することができなくなる。
…等と言った条件が整わなければならないのだ。
もちろんこれはまず整わないと考えられる。
だから、世の中で取り交わされる契約は「不完備な契約」にならざるを得ない。