労働者の雇用と賃金は、労働市場によって決定されると言うのが古典派理論である。 この理論は前提として、不特定多数の労働者と雇用者がいて、労働者は常に賃金の高い職に転職しようとし、雇用主も不要な労働力を直ちに解雇して削減できるという状態をおいている。 だが現実の社会では、そういう気軽な転職が可能なのは将来性のある若くて有能な人材だけであり、また経済全体の景気がいいときだけの話である。 そしてまた自由...
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労働契約はたいてい「関係的契約」(リレーショナル・コントラクト)で結ばれる。 労働契約は、状況によって様々に変化する労働内容を完全に書き記すことができないので「完備契約」が結べない。だから「勤務時間内の業務に関することに限って、労働者は指揮者の命令どおりに働く」というような内容の契約が結ばれる。これがすなわち「関係的契約」である。 そしてまた企業というのは特定の人物やグループを「ボス」として、そ...
労働契約は、状況によって労働内容が様々に変化するため、完全に書き記すことができないことが多い。 通常の財やサービスの取引であれば、何を何個、いくらで受け渡す、というような明確な契約が結べるが、労働契約の場合は、そういう風になっていないことが多い。 なので「完備契約」が結べず、不完全な契約になる。 だから「勤務時間内の業務に関することに限って、労働者は指揮者の命令どおりに働く」というような内容の契...
古典的な労働市場モデルでは、労働者の所得は激しく変動する。 というのも古典派労働市場モデルは、他の様々な市場モデルと相関関係を持つからだ。 例えば関わっている商品の価格や取引量(個別の需給関係)、経済全体の景気(マクロ・バランス)、そして時代が求めるスキルとそのスキルを持った人間であるかどうか(質的均衡)、などに連動して動き、これらに大きな影響を受ける。 だから、常に労働需要と供給との均衡点が大...
かつて、日本の大企業における人的資源政策の大きな特徴は、1)終身雇用。2)技術を持たない若い人間を雇用する。ということであった。 だがこの現象は日本にだけ特異なものではない。 ただ日本の大企業では、他の国よりもよりハッキリした形で行われてきた、というだけである。 日本の大企業は中途採用で技術者を採用することがなく、終身雇用を意識した従業員を途中で解雇することがなかった。 このことは「離職率を極端...
かつて、日本の大企業に就職した者は、企業と一生運命を共にすることになった。 それは言ってみれば企業という「ムラ共同体」に参加するというようなものだった。 ムラに必要な技術を習得した者に対しては高い報酬が与えられ、あまり必要でない汎用能力に対しては評価が与えられないということであった。 だから企業は安心して従業員に対して、様々な助成を行って従業員の能力を高めようと務めてきた。 これが企業特殊的な人...
日本の終身雇用制度ほどハッキリしているわけではないが、先進諸国では多くの労働者が長年に渡って同じ会社や企業に勤めている。 アメリカの労働者は平均して同じ職場に八年間勤めているし、また二十年以上同じ職場で働いている人間も四分の一以上いる。 実際勤続十五年以上の労働者の割合は、実は日本よりアメリカの方が高い。 また勤続二十年以上の労働者の割合を比べてみると、アメリカよりイギリスの方が高いというデータ...
内部労働市場(インターナル・レイバー・マーケット)の特徴1)長期雇用関係2)雇用のための限られたエントリー・ポート(就職門)3)企業内キャリアパス4)内部昇進企業特殊的人的資本と雇用 内部労働市場が生じるような組織では、長期的用が大きな意味を持つ。 というのも長期雇用を前提とすると、企業特殊的人的資本への投資が有利となる場合が多いからである。 企業特殊的人的資本、というのは要するにその企業組織内...
昇進は組織の中の有能な人物を、適した仕事に就けるための配置法の一つである。 ヒエラルキー上層の仕事は、より高い水準の知識と技能を要求するとともに大変な責任を伴う。だからそのような知識と責任を担うだけの能力を持つ者をそうした仕事に割り当てることが、企業や組織にとって非常に重要なこととなる。 より低いポジションにいる者は機械的な処理しかさせてもらえないし権限や裁量権も小さいが、それに対する責任は小さ...
たいていの企業が、従業員の業績に対して報酬を与えるのではなく、よい業績を修めた従業員を昇進させて高い賃金に相当する仕事に就けることによって昇給させると言う方法をとる。 これはつまり「高賃金をもらえる高責任の仕事」と「低賃金しかもらえない普通の仕事」という風に「給与が仕事に付与されている」ということである。でもなぜそう言う方法になるのだろうか。 その原因の第一は、「仕事というのは評価が難しいもので...
業績の良い者を昇進させ、高い賃金の仕事に就けるという形態のインセンティブは、「比較業績評価法」の特殊な形である。 この場合、このシステムは「トーナメント」となり、少ない昇進のイスを巡って勝者と敗者が別れるという形になる。 だから同等の成績を上げた者が二人以上いても、昇進のイスが一つしかなければ僅差で待遇は天と地くらい分かれることになる。 そしてイスが空けば、大してよい業績を上げていない者が昇進し...
最初に挙げた内部労働市場が発生する場合の特徴を改めて確認しておく。長期雇用・限られたエントリーポート(入職口)内部昇進による空席の補充(トーナメント)仕事に付与された給与(+わずかな業績給) これらは互いに補完しあい、一貫した内部労働市場システムとして働いている。 ではこれらが企業の抱える問題の一体何を解決するのだろうか? それは1)仕事の業績が上司(管理者)には観察しうるが、それを客観的 に第...
多くの専門的職業は、それによって得られる便益よりも確実に多い「努力」が投下される。 たとえば弁護士、経営コンサルタント、大学教授、そして受験競争の激しい国での受験生など。 彼らは仲間に遅れないように、競争相手に負けないように、必要以上の時間と金をかけ、必死になって努力する。必要以上に長時間働き、それに資源を注ぎ込む。 このような状態を「ラットレース」と呼ぶが、このような「過剰な努力」は一体なぜ起...
従業員の業績は何度も言うが、完全に観察したり測定したりすることは不可能である。 だから業績給によるインセンティブよりも、昇進トーナメントと言う形でそれぞれの仕事にそれぞれの賃金を対応させる。 つまり業績を上げた者を高い賃金に対応した役職に就ける、という形で企業は職務配置を行うわけである。 このために企業は入職口を狭く制限する。 たくさん雇ってじっくり見て有能な人間だけ昇格させ、後はクビにするとい...
「テニュア」とは「終身雇用保証」のことである。 テニュアを保証された者は、特別な理由がない限り定年まで解雇されないという、約束のことである。 たとえば多くの大学では、能力を認めた教授に対してテニュアを与えている。 これは大学で研究されているような専門的な分野では、その専門的な能力が他部門の人間にはよくわからないから行われているものと考えられている。 たとえばある研究分野において、誰が有能であるか誰...
アダムスミス以来の労働市場理論は、短期雇用や季節労働者の雇用を説明するにはもっともな理論であった。 というのも短期的雇用や季節労働というのは、基本的に「大したトレーニングを必要としない」からだ。 だから新しい労働者を雇うのもクビにするのも、雇い主からみるとさして問題はなかった。 そこには常に労働者を雇いたい雇い主と、明日の仕事を探している労働者が無数におり、だからこそそういう労働市場理論が成立し...
昇進はトーナメントになっていて、言ってみれば「イス取りゲーム」のようになっている。 業績を上げた者を全て昇進させると言う方法では、業績を上げやすい部門とそうでない部門とに与えられるインセンティブに温度差が生じてしまう。 つまりそう言う方式では、花形部門では簡単に業績が上がるので昇進しやすくなるが、撤退部門であるとか非採算部門ではそういう量的な業績を上げにくいから業績の上げにくい部門の従業員に対し...
従業員の業績は何度も言うが、完全に観察したり測定したりすることは不可能である。 だから業績給によるインセンティブよりも、昇進トーナメントと言う形でそれぞれの仕事にそれぞれの賃金を対応させ、業績を上げた者を高い賃金に対応した役職に就けるという形で企業は職務配置を行うわけである。 このために企業は入職口を狭く制限する。 たくさん雇ってじっくり見て有能な人間だけ昇格させ、後はクビにするというのは、人件...
組織内において労働者が手にする報酬は非常に様々な形をとる。たとえば、・固定給(週給または月二回給または月給)・出来高給または歩合給・ボーナス・年金の積立て(給与の後払いと解釈される)・フリンジ・ベネフィット(健康保険/障害保険/フィットネスクラブの利用/引越し手当/学会参加費用の負担)、、、などなど。 また主に経営陣に与えられる報酬としては・特別な食堂の利用や社用車の利用、・自社株の優先的取得権...
従業員に支払われる報酬には、固定給と歩合給がある。もちろんこれらは単独で用いられる他にも、給料の内に「固定部分」と「歩合部分」という形で用いられ、出来高給などとも呼ばれる。 企業が出来高給を用いて雇用する対象は、小売り販売員や外回りの営業マン(セールスマン)などであるが、それはなぜかというと、これらの職種はモニタリングが難しいからであろう。 同じフロアで仕事をしている従業員に関しては、上司や同僚...
正規の従業員に支払う「技能給」は、インセンティブ報酬の一種だ。 現場での直接的な業績ではなく日頃の従業員の技能の修得や向上への投資に対して褒賞したり動機付けを行ったりするモノである。 これらのプログラムは日本の大企業では一般的であり、北米とヨーロッパでも各地で試みられている。 この場合給与は仕事に付与されているのではなく、従業員の修得している技能(たとえばある機械を運転できる、メンテナンスできる...
組織の幹部は、幹部でなければ知らない情報を持つ。 しかし組織の従業員も、その部署でなければ得られない情報を持っている。 たとえば経験豊かな販売員は、担当地域の市場の潜在性について販売担当管理者よりもずっと多い情報を持っている。 その情報は言葉や文字にできるような明確な内容だけでなく「皮膚感覚」とでもいうような曖昧模糊とした感覚情報までを含んでいる。 それは紛れもなく現場にいる者の感覚であり、貴重...
給与が個人の業績に全く結びついていないケースはよくある。 そうしたケースでは、監督者が主観的・或いは曖昧な規準に基づいて給与や昇進・昇給などを決めている。 だがそう言った場合においても、昇給や昇進は従業員に対して強いインセンティブを与えるので、これを特に「暗黙のインセンティブ報酬契約」と呼ぶ。 暗黙のインセンティブ報酬契約が存在するのはもちろん、前もって望ましい業績を明記することが難しいことと、...
仕事のデザインは企業や組織によって異なる。 たとえば北米の自動車工場では、使用している機械が故障してもその故障を修理する責任を従業員は追わず、修理工を呼ぶようにデザインされていたが、日本の自動車産業では、ラインの従業員がたいていの修理ができるように訓練されていた。 また経営コンサルタントのマッキンゼー社では新入社員をコンサルタントに育てるために一つのテーマを与えて訓練するが、競争相手のベイン社で...
多くの企業では、従業員グループに対してインセンティブ報酬が支払われている。良い業績を上げた部署やチームに対してボーナスが支払われ、褒賞が与えられたりする。 これらのインセンティブは明示的な場合もあるが、日本の企業のように暗黙のルールとして行われている場合も多い。 アメリカでは従業員グループに対する明示的なインセンティブ報酬として、プロフィット・シェアリング制度があり、1988年にはおよそ三割の企...
1980年代末までに、一万社以上のアメリカ企業が「従業員持ち株制度(ESOP)」を採用したが、正式にはそれは従業員の年金制度であった。 ESOPでは会社は自社株の一定数を取得して、この制度に信託する。 従業員は毎年個々にこれらの中から一定割合を分配され、辞職時まで保有する。この制度で自社株全部が従業員の手に渡ったケースもある。 この制度によって敵対的買収を防ぐことができると言うことや、企業の所有...
アメリカ大企業365社のCEO(経営責任者:昔で言う社長)が、1990年に手にした報酬は、1980年代の十年間に212%も増加した。これは工場労働者の賃金上昇率53%の四倍の伸びであり、エンジニアの報酬増加率と比べても約三倍の伸びであった。 ビジネス・ウイーク誌の調査によると、アメリカのCEOの年収の平均は約120万ドルで、ストック・オプションなどの制度を通じての長期報酬は195万ドル(2億円強...
---■中間管理職---CEOの業績がそう言う風にハッキリ分かりやすいのに対し、仕事が直接業績に反映されないような部署の担当者や、中間に位置する管理職の業績評価の測定は外部や他部門の業績と互いに影響し合うから、非常に難しい。 だから替わりに中間管理職の報酬は、その責任の幅と部下の数によって決められることが多い。 それは言ってみれば役所の主査とか主任とか部課長のような役職に付与する給与のようなもので...
リスク中立的とは「リスクを許容する覚悟があり、リスクを恐れない」ということである。 大企業ではリスクが株主に分散されて経営者はリスクを負わないで済む。だから、経営者や管理職は「リスク中立的」になるはずだ、と考えられる。 だから株式を広く公開している企業は「リスク中立的」で、現にアメリカの大企業ではリスクをモノともせず投資をし、結局失敗している例が山ほどある。 たとえば1970年代末から1980年...
日本では転職機会が少なく、成功している管理者はたいていその企業でずっと仕事をしている者が多い。 日本の企業の基本給は、アメリカやヨーロッパの企業ほど仕事による差がない。このことによって日本企業の管理職は、リスキーな投資をするリスクを軽減されている。 つまり日本の企業では外部から管理職だけを雇用すると言うことが少ないために管理職になる人材が限られていて、少々の失敗は問題にされないのだ、、、というこ...
二年前の夏に、アメリカの繁栄はCEOの業績給と関係があるのでしょうか? というメールをいただいて、書いたわたしの見解。 今読み直すと結構興味深いので再録します。 まず管理者とインセンティブ契約を結ぶようになってから、CEOの報酬が値上がりしたということですから、それがCEOにインセンティブを与え、企業を成長させる「強い」動機となった。 そしてそれがムラ化しつつあった企業を、効率を重視する機能的集...
かつては年功によって割り増すという形で報酬を支払う制度が、企業の暗黙の契約であった。 ちゃんと働くかどうか分からない勤続年数の浅い者には限界生産力に見合うよりもやや低い報酬を支払い、そして長年働いた者にはやや高い報酬を支払う。 これは一種のスクリーニングのためであり、ベテランの転職機会費用を勘案したものであり、また効率性賃金の一種であり、先入者利益の一種である。 比較的単純にモノを作ると言うだけ...
年功賃金制度というのは、市場が拡大しつづける経済成長期の産物だという。 また軍隊などの忠誠心が必要とされる組織にのみ特有な報酬制度だという。 これは堺屋太一さんなどの本には載っていましたが、最近までそれがピンとこなかった。 それがなかなか顕在化しなかったのは名目インフレのせいで、今になって考えてみると、インフレというのも年功賃金制度を支える大きな要因やったんやね。 実質賃金が横這いや下降でも、名...
経営者の給与と、その者が率いている組織(企業・会社・部門・部署)の規模には規則性がある。 それは企業・産業・国・期間を問わず安定した状態になっていて、売り上げが10%増加すれば給与やボーナスが2~3%増加するという相関関係になっている。 規模の大きな会社ほど給与も多く、そして企業が成長するとやはりそれに応じた給与体系に成長する。 この規模の給与への効果は、規模が大きくなると有能な人材を持つことの...