モラルハザード問題が発生するには三つの条件が必要である。1)取引を行う双方に、利害の対立があること。 (つまり一方の犠牲の上に他方の利益が生じるということ)2)利害が異なる人間双方を、取引に至らせる理由があること。 (つまりとにかく取引をせねばならない状況に陥っていること)3)実際に契約が遵守すなわち守られているかを調べたり、あるい は遵守を強制させることが技術的・経済的に難しいこと。 (検査し...
インセンティブ契約記事一覧
モラル・ハザード問題の発生を抑える1つの方策として「保証金」を積むという方法がある。 たとえばアメリカの建設業者は、道路を造ったりビルを建てたりというプロジェクトが約束期日までに約束の方法で完成できない場合の保証金を預託させられることが多く、それが達成できない場合には保証金が没収されることになっている。 保証金を没収されると企業は利益を失い、逆に損失を出すことになるので、企業はサボらず契約を履行...
エドワード・ラジアーによると、年功序列型賃金の仕組みは、従業員の怠慢を防ぐ手だてとしての「保証金」であるという。 たとえば従業員が怠けるのは、怠けることによって何らかの便益を受けるからである。 正規の労働時間内に手抜き作業を行い、それを「残業」して行えばより高賃金を得ることができる。 だから、そのために労働者は怠ける。 だがそういう怠慢行為を発見したときに、企業が従業員を解雇するとすると、企業は...
モラルハザードの三条件(復習) モラルハザード問題が発生するには三つの条件が必要である。1)取引を行う双方に、利害の対立があること。 (つまり一方の犠牲の上に他方の利益が生じるということ)2)利害が異なる人間双方を、取引に至らせる理由があること。 (つまりとにかく取引をせねばならない状況に陥っていること)3)実際に契約が遵守すなわち守られているかを調べたり、あるい は遵守を強制させることが技術的・...
なぜ組織が合併すると1+1=2以上にならないのであろうか。 なぜ全ての生産を一つの企業で賄うようなことができないのであろうか 理屈から言えば各部門を独立させた状態で運営し、要所要所で中央政府や本社が適切な指示を出し「選択的介入」を行うことで、少なくとも1+1=2の業績が上がるはずである。しかし現実にはそんなにお気楽には運ばない。たいていは2未満になってしまう。 一体なぜなのか。 企業を統合すると...
かつてJRが「国鉄」と呼ばれていた頃、国鉄は毎年毎年一兆円もの赤字を垂れ流していた。 そこで日本政府はことあるごとに何度も国鉄の大赤字路線を廃止しようとしたり、国鉄を分割民営化して何とか赤字が出ないようにしようと画策した。 しかしその都度国鉄労働者を支持母体とする野党や廃線の可能性の高い地域選出の議員たちの大反対によって、その都度抜本的な手を打つことができなかった。 そして何もできず、結局ダラダ...
現実社会における保険というものは、大なり小なりインセンティブ契約という形を取っている。 たとえば火災保険でも被害の全額をカバーしてくれる保険はなく、損害がある一定金額を超えた場合に越えた分だけカバーするという風な契約になっている。 また健康保険でも、被保険者は治療費の何割かは常に自己負担をするという事になっているし、出産や美容整形などの費用の殆どは健康保険では対象外となっている。 さもなければ大...
従業員に働くインセンティブを与えるために、業績と報酬をリンクさせる「インセンティブ契約」を結ぶことがある。 しかしインセンティブ契約を結ぶには、不確実性の問題をまずどうにかしなければならない。 不確実性の問題とは、本人が同じ努力をしているにもかかわらず、周囲の状況によって業績が良くなったり悪くなったりするケースの対処問題である。 たとえばコンビニの近くに別のコンビニができた。 それによってそのコ...
株主が経営者を雇ったり雇用主が従業員を雇うとき、モラルハザード問題が生じる。 つまり雇われている人間(エージェント)が雇っている人間(プリンシパル)の意志や利益に反して、自己利益を図ろうとするのである。 それを防ぐには従業員とインセンティブ契約(歩合給・ボーナス契約など)を結ぶしかない。業績と報酬をリンクさせて、従業員のやる気を引き出すしかない。 だがしかし、これには二つ問題がある。 一つは業績...
それぞれ独立したリスクを持った二人以上の人間が、互いにリスクを分担しあうことによって総リスク負担費用を抑えることができる。 これを特に「リスクシェアリングの原理」と言う。 リスクシェアリングの原理は、全ての保険契約の基礎となっている考えである。 たとえば自動車事故にあう確率は、人間それぞれ独立している。 つまりAさんが事故に遭えばBさんも事故に遭うというような従属現象(つまりAさんの事故がある確...
それでは従業員に与えるインセンティブについて考えよう。雇用主の利益を図って従業員が費やす努力の水準をe、その私的費用をC(e)とする。 努力水準eが示すのは、企業の業績向上に役立つために従業員が行うあらゆる種類の行動、たとえば接客態度の向上(服装を正したり言葉遣いを丁寧にしたり)、業務に役立つ勉強、業界動向や新技術の研究、市場調査や分析、企画の提案、部内作業の効率化などなどの水準である。 そのた...
雇用主の利益を図って従業員が費やす努力の水準をe、その私的費用をC(e)とする。 努力水準eが示すのは、企業の業績向上に役立つために従業員が行うあらゆる種類の行動、たとえば接客態度の向上、業務に役立つ勉強、業界動向や新技術の研究、市場調査や分析、企画の提案、部内作業の効率化などなどの水準である。 そのために支払った授業料や時間、業務の不愉快さ、失われた利益や名声、その他雇用主の利益向上と引き換えに...
雇用主が中規模以上の企業の場合、従業員一人が担えるリスク負担能力は、雇用主と比べて取るに足らないくらい小さい。 このためインセンティブの問題を考えないとすれば、従業員の給与に変動をもたらす全てのリスク発生源に対して保険を掛け、雇用主が金銭的リスクを全部負担するのが最適であろう。 だがしかし、報酬中の全てのリスクを取り除いてしまうと、努力水準を高めて利潤を増大させるインセンティブが、同時に従業員か...
収入が歩合や会社の業績によって上がり下がりするより、 「給料が安くても、確実に一定額以上の給料を毎月もらいたい」という従業員は多い。 このとき従業員に支払われる給料額は、変動リスクを全て受け入れた場合の収入Iの平均(あるいは期待値)をI^とし、リスク回避係数をr(I^)、そして報酬の分散値(ばらつき)を Var(I)とすると、インセンティブ契約(つまり業績に応じて報酬が上がったり下がったりするよう...
努力するにも何らかのコストがかかる。 業績アップのために本を読んだり英会話学校に通ったり、、或いはその他の様々なトレーニングを行ったり、、、、。 これらの費用をC(e)で表し、そしてIにα(基本給)+β・(e+x+γy)を代入して計算すると、インセンティブ契約における従業員の給料(確実同値額)は、結局下のようになる。 w=α+βe-C(e)-(1/2)rβ^2・Var(x+γy) 。※ここでβ^...
従業員の業績をどう評価するかは難しい。 しかし評価の仕組みによって、企業の業績が良くなったり悪くなったりするわけだから、いかにうまくインセンティブを給料に盛り込めるかが大きな鍵になる。 従業員が上手く働いたことで業績が上がったのがハッキリしているのであれば、報酬でそれに報いるべきだ、というのが「インフォーマティブ原理」だ。 インフォーマティブ原理とは、「ある変数の値の観察により、パフォーマンスの...
前項では、業績の評価法については「所与given」として考えた。 だがしかし資源配分を変更し、モニタリング(評価法)を改善すれば効率のよいインセンティブを作り出すことができるはずである。 だがしかし、どれくらい資源(お金や人材)をモニタリングに回せば良いのだろう? モニタリングに費用をかければ、とりあえず測定誤差の分散が小さくなるものだと仮定して、この問題を考えてみよう。 努力測定に伴う分散(ば...
企業に勤める従業員は、職務として通常複数の任務をこなさねばならない。 営業活動をしたり販売したり、顧客からの苦情に対応したり、代理店やアライアンス(協業社)と会議をしたり、商品のプレゼン(提案)用の資料を作ったり、人事評価を行ったり。 そういった様々な作業をせねばならない。 忘年会の企画を立てたり、店内や社内の掃除をしたりといった作業だって、仕事のうちである。 これらの仕事はもちろんそれぞれに意...
売り上げや利益を指標とする報酬契約で従業員にボーナスやインセンティブを与える度合いが強すぎると、社員は目先の売り上げやそれに直結する作業にばかり注力することとなる。 それでは評判を落とすから、そのような事が生じないように、従業員それぞれの任務や職務に対し、均等に報酬を割り当てる事がどうしても必要となってくる。 たとえば「掃除一時間」と「販売活動一時間」に対し、同じだけの報酬を支払うとか、「研修」...
日本の大企業(自動車・電機メーカー)が下請け企業に支払う部品代金は、契約で取り決められた金額ではなく、供給企業の決算報告書に書かれた実際の費用による。 たとえばある部品一万個の目標価格x^億円、実際の生産費用をx億円とすると、部品の代金はp=x+β(x^-x) [億円]となるというのである(0<β<1)。 これはまず発注側企業と下請け企業とで目標部品価格を取り決めて、その目標価格と実際にかかった...
製品のコストを引き下げるために部品を安く調達するのは当然の努力としても、コストを引き下げればそれで企業はうまく利益を上げることができるのだろうか? という問題も生じる。 つまり生産部門は生産した商品の売れ行きに責任を持つべきか、それともコスト削減だけに責任を持つべきか、、ということである。 小さな企業だと生産部門も販売部門も同じ場所にあり、従業員も両部門の事情に明るくなる。 だから、互いに連携し...
初等・中等教育の改善を目的とした教員に対するインセンティブをどのようにすべきか、、、という問題がある。 つまり生徒の学業成績を指標として何らかの報酬インセンティブを教員に与える場合、ペーパーテストの結果のみを指標として用いるのは是か非かという議論である。 「インフォーマティブ原理」によれば、真の業績を反映しやすい指標、つまり指標のばらつきが一番小さい(つまり分散が小さい)指標を用いることが業績を...
たとえばインセンティブを与えなくとも従業員が達成する努力水準をe^とする。 この場合の努力水準は、従業員がクビにならない程度に働く水準になる。 ここで会社が資産を所有している場合、従業員の確実同値額は α+βe2-(1/2)β^2・Var(x2)-C(e1+e2)となるが、この式はβ≧0ならば従業員はe1=0という努力水準を選ぶということを示している。 つまりe1>0なら、従業員はC(e1)だけ...
インセンティブ・システムを実行するために厄介な問題となるのが「業績評価の基準をどう設定するか」ということである。 すなわち通常の平均業績「x^」が分かればE=α+β( e + x^)という形で報酬を決めることができるのだ。 しかし、このx^をどう決めればよいのか? ということである。 この式を変形すると α=E-β( e + x^ )となる。 ここで、x^を高く設定しすぎるとβの大きさに比例して...
ラチェットとは、片方向にだけ回る歯車のことだ。 あるシーズンに高業績を挙げたソ連の企業が、次のシーズンには中央政府からより高いノルマを課せられるという現象の観察から作られた「造語」である。 ソ連の中央政府は高業績を上げた企業にノルマの引き上げ(ラチェット引き上げ)で応じ、もし次のシーズンにそれを達成できなければ「怠慢である」として懲罰の対象にした。 ラチェット効果を充分意識していたソ連の経営者は...
不完全なコミットメント問題が発生するのは、労働者側でも同様である。 ある時期での業績規準調整に際して、その一期前の業績を用いずにインセンティブを変更しないということに経営者がコミットできるならば、それは当事者全員の利益となる。 その逆にラチェット効果が起こるようなことになると、下手に良い成績を上げてしまったら、さっさと辞めねばならなくなってしまう。 たとえばリンカーン・エレクトリック社はインセン...
ここまでは、エージェントがリスク回避的であるという仮定の下に議論を展開してきた。 すなわちたいていの人間が完全歩合制よりも固定給をもらう方が有り難い、給料が業績に応じて激しく変動するなんて耐えられない、という仮定のもとに話をしてきた。 だがしかし、仮にリスク回避係数rが0の人間、すなわちリスク中立的であれば、問題は生じないのだろうか? エージェントがリスク中立的であっても起こる問題 エージェント...
発明家の発明品をスーパーに託す。 このとき、その商品の製作・販売のリスクは、契約を結んだスーパーが負うのが妥当である。 と言うのも普通、発明家とスーパーのチェーンでは後者の方がリスク負担の能力(リスク受容能)がはるかに大きいからである。 だから発明家はその商品の製作販売の権利を、全てスーパーのチェーンに売り渡すのが効率的になる。 だがしかし、発明家よりスーパーのチェーンの方がお客さんの選好を知っ...