自然失業率
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これまでの議論では、失業については捨象(しゃしょう:考えな
いこと)してきた。
特に経済成長を考えるとき、失業の問題は重要であったのだが、
とりあえず完全雇用が達成されているという仮定の下に考えていた。
失業率が低く、無視しても問題とならない水準ならば良いが、失
業はわずかでも社会的には様々な問題を引き起こすから、政治的に
は大きな問題である。
失業はなぜ起こるか。
そしてその水準はどのような要素によって決まるのか。
長期分析においては、失業率の大まかなトレンドである「自然失
業率」に焦点を当てつつこれらの問題を考える。
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■労働市場の動学モデル
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労働力をL、就業者をE、失業者をU、で表すと、
L=E+U、 失業率:U/L
である。
ひと月のうちに離職する人間の率(離職率)をs、就職する人間
の率(就職率)をf、とする。と、失業率が一定であるとき、
f・U = s・E
である。
この式を変形して失業率を表してみると、
fU = s(L-U)
fU/L = s(1-U/L)
∴ U/L = s/(s+f)
となり失業率U/Lは離職率sと就職率fに依存することがわかる。
これは当たり前すぎるくらい当たり前の結論だが、しかし労働政
策を考える上で離職率と就職率を変化させるような政策を選択する
と、失業率も変化するのだと言うことは肝に銘じておかねばならな
いことである。
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職探しと摩擦的失業
単純な労働市場モデルでは、労働者はどんな職に就くにも十分な
能力を持つことになっているが、実際にはそうではない。
雇用主だってちゃんと働いてくれる労働者を求めているし、能力
のある労働者を雇いたい。
労働者にだって趣味や趣向はあるし、家族や勤務地など賃金以外
の労働条件について一言を持っている。
そう言うわけだから、労働者はたいてい離職してすぐ他の仕事に
就くということはない。すなわちマッチング・コストやマッチング
の時間が必要となってくるのである。
このような離職と就職の間に時間があることによって生じる失業
を特に、
「摩擦的失業(フリクショナル・アンエンプロイメント)」
という。
摩擦的失業には、タイプライターがパソコンに代わったりという
経済で必要とされる職能が変化したり、ある地域の産業が興隆して
別のある地域の産業が衰退することによって地域間の労働需要が変
化したり、、、というような、産業間・地域間における需要変化も
含む。
これがつまり「部門間シフト(セクショナル・シフト)」と呼ば
れるものであるが、社会が変化し労働需要が変化する以上、これら
の摩擦的失業は無くなることはないだろう。
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■公的政策と失業
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政府や自治体が実施する公的政策は、自然失業率を変化させる。
たとえば「職業安定所」などのような施設はマッチング・コスト
を引き下げ、摩擦的失業を減らす効果がある。
逆に「失業保険」などといった制度は、再就職に時間をかける余
裕を与えるから、摩擦的失業を増やす効果がある。
もちろん失業保険は労働者に自分にあった仕事を捜す機会を広げ
るから、労働資源の効率的な資源配分に寄与している面もあり、こ
の制度の得失を判断するのは難しい。
現行の失業保険は、離職した従業員への支払いの一部を解雇した
企業が負担する仕組みであるので、失業率を引き下げるために(離
職率を引き下げるために)企業の失業者への支払いを増額してみれ
ばどうか、、、という案もある。