人口増加と一人当たり資本ストック
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ソローのベーシックな成長モデルでは、貯蓄率sが経済の定常状
態を決定するという結論である。
すなわち高い貯蓄率は、高い一人当たり産出高と高い一人当たり資
本ストックという結果を生み、低い貯蓄率は低い産出量と低い資本
ストックの原因となる、、、というわけである。
だがこの説では、途中にいかに高度な経済成長があったとしても、
それは単なる過渡的な現象で、結局経済の定常状態に達するだけだ
と言うことだから、多くの国々で発生している「持続的な経済成長」
を説明しにくいのも確かである。
先進国の貯蓄率は確かに高く、それが経済の高い定常状態を生む
原因の一つになっていることは確かであるが、経済成長はさらに一
定の定常状態に止まることなくさらに持続的に成長しているようで
ある。
その背景にはもちろん先進国の技術進歩の影響もあるのだが、少
産少死化による人口安定化の影響も大きい。
そういうわけでここではまず、ソローのモデルに人口成長の要素
を加えた拡張モデルを考えてみる。すなわち「人口増加の定常状態
への影響」である。
人口増加と一人当たり資本ストック
まず人口(労働者)の増加率をnとする。
年率で人口が1%増加するならn=0.01である。
この時、人口一人当たりの資本ストックは減少する。
限られた資本ストックを人口で割るわけであるから、人口が増え
れば当然一人当たり資本ストック量は減少する。
ここでもう一度記号を再確認しておくと
■一人当たり資本ストック量:k=K/L(t)
■一人当たり産出高:y=Y/L(t)
■減価償却率:δ (0<δ<1)
■一人当たり投資:i
■一人当たり消費:c したがってy=c+i
である。
さて人口がLから(1+n)Lに増加すると、一人当たり資本スト
ック量はどうなるか?
------------------------------------------------------------
※ここでn≪1の場合、1/(1+n)-1≒-n という近似を利
用する。
------------------------------------------------------------
そうすると一人当たり資本ストック量の変化は
k'-k=(K/L){1/(1+n)-1}
だから、-kn(∵K/L=k)である。
そうすると人口一人当たりの資本ストックの増分Δkは、
Δk=i-δk-nk
となる。
とすると一人当たり資本ストック量を減らさないようにするため
には、(δ+n)kだけの一人当たり投資が必要になることになる。
この(δ+n)kを特に「臨界的投資」と呼ぶ。
つまり人口成長がある経済では、一人当たり資本ストック量を減
らさないために、減価償却分と増えた人口への分け前(拡散分)を
補填するだけの投資が必要になってくるのである。
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人口増加率の大小
では人口成長のある場合のkの定常状態はどうなるか?
ここでiは一人当たり産出高yと貯蓄率sの積syで、yは生産
関数fを用いてf(k)と表せることを思い出すと、
Δk=sf(k)-(δ+n)k
となるから、Δk=0となる k* が定常状態である(下図参照)。
i、δk (δ+n)k
↑ /
| _――――――――sf(k)
| / /
| / / ・
| / / ・
| / / ・
| / / ・
|/ / ・
| /_____________
0 k* k
では、人口増加率の大小は、経済の定常状態に
どのような影響を及ぼすだろうか?
資本の絶対量が一定である場合、人口が増えれば増えるほど一人
当たり資本ストック量が小さくなるのは直感的に理解できる。
上図でも人口成長率nが大きければ、直線i=(δ+n)kの傾
きは急勾配になり、当然 k* は左に移動して小さくなる。
つまり
人口成長率nの上昇
→ 経済の定常状態 k* が減少
→ y=f(k)だから、y* も減少
であるから、人口成長率の高い国々では一人当たりGDPの水準は
より低い水準に留まってしまう事になる。
そして人口成長は資本蓄積の黄金律水準に対しても影響を及ぼす。
すなわち一人当たり消費はc=y-iだから、定常状態での消費
は、
c* = f(k*) - (δ+n)k*
で、消費を最大にするk*の水準(黄金律水準)は、
MPK=δ+n
を満たす場合である。
これは人口成長率nに対し、n=MPK-δと言うことである。
人口成長率と一人当たりGDPの関係(逆相関関係)は、113カ国
を対象とした研究でも確かめられている。