貯蓄と退職
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人が自らの人生について考え、それによって消費性向(収入のい
くらを消費に回し、いくらを貯蓄に回すか)を決めると仮定すると、
ライフサイクルが大きな問題になってくる。
たとえば60歳で定年退職するとすると、61歳からは収入が大
きく落ちることになるが、生活はそんなに大きく落とせない。
だから退職後もそこそこの生活ができるように人々は消費を控え、
貯蓄を行うだろう。
では働いているウチに金を貯め、それを退職後に崩しながら生活
の質を落とさずに暮らそうという計画を立てた場合、消費行動はど
うなるか?
たとえばこれからの人生の残りをT年、退職がR年後、退職する
までの毎年の収入がYであるとする。
ここで富(手持ちの財産)をWとすると、初期の富Wと退職まで
の収入R×Yの合計<W+R×Y>が、消費の原資となる。
この場合人生の残りがT年だから、毎年消費に回せる金Cは、
C =(W+R×Y)/T
ということになるが、これを少し変形すると、
C =(1/T)W + (R/T)Y
となり、この式より人々は手持ちの財産Wを死ぬまで均等割りで
使い、収入のうちR/Tを使うのではないかという風に予想がで
きる。
ここで富(財産)の係数をαとすると、これは富に対する限界
消費性向(富が一万円増えたときに何千円使うか)ということで
ある。
一方収入Yの係数をβとすると、これは収入Yに対する限界消費
性向(収入が一万円増えたときに何千円使うか?)ということにな
る。
で、αとβを代入してさらに両辺をYで割ると、
C/Y =α(W/Y)+β
となり、左辺が平均消費性向(全収入のウチいくらを消費に回すか)
になる。
これをみると、収入Yに比べて手持ちの財産Wが多い者はW/Y
が大きいから平均消費性向は高くなる。
一方手持ちの財産Wより収入Yの方が多い場合は、W/Yが小さ
くなるから平均消費性向は低くなる。
つまり
「高収入の家計は平均消費性向が低く、低収入の家計は平均消費性
向が高い」
ということになる。
つまり「収入が多い金持ちほど金を使う割合が低く、貧乏人は収
入をどんどん消費する」という感じである。
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ケインズ消費関数のなぞ
ケインズは消費が「現在の収入」に依存すると考えた。
つまり「人々は現在の収入に応じて消費を行うのだ」ということ
である。
そしてケインズは次のように推論した
「所得が向上すると、平均消費性向はだんだん下がっていくだろう」。
(C/Y= C^(自発的消費) +cY、c:限界消費性向)
ところがケインズ以降の経済学者たちが実証的に統計データを集
めて考察したところ、妙な結果が出た。
というのも「短期的にはケインズの予想の通りだが、長期的には
ケインズの予想通りにはなっていない」のであった。
実証的研究によって、消費関数(収入と消費の関連)には短期の
消費関数と長期の消費関数が存在することがはっきりしたのである。
ではなぜこのような矛盾した結果が出るのであろうか?
モジリアニのライフ・サイクル仮説では「貯蓄による富の増大」
によって、この現象を説明する。
つまり人々は退職後の生活に備え、働いているウチに貯蓄を行う。
貯蓄が増えると言うことは手持ちの富Wが増えるということであ
るから、そうなると
C/Y =α(W/Y)+β
のα(W/Y)が増えるから、平均消費性向も増えると言うことに
なる。
上記の式で考えれば、貯蓄が増えた分だけ手持ちの富が増え、そ
のせいで平均消費性向が押し上げられる。
そして収入Yが増えると同時にWも増えていくから、平均消費性
向の降下は相殺され、退職後には収入Yが減ると同時にWも貯蓄を
取り崩して行くから減るので平均消費性向の上昇も相殺される。
そういうわけで長期的視点に立てば、収入が増えても平均消費性
向の低下は起こらない。これがモジリアニの説である。
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■高齢者の貯蓄と消費
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高齢者は実際には、モジリアニのライフサイクル理論で予想され
るほど消費を行わない。
フィッシャーやモジリアニのモデルでは、人々が死ぬときには全
ての資産を遣い切るという前提だが、実際にはいくばくかの遺産を
残して死ぬ者が殆どだ。
高齢者が予想を下回る程度しか消費を行わない理由は、一つには
実際に寿命があとどのくらいか予想できないからだし、高齢者たち
が実際の寿命以上に生き続けるつもりをしているからだろうと考え
られる。
また子や孫に遺産を残そうと考えるからかもしれないし、何かあ
った場合に備える予備的貯蓄を持とうとするからであろうとも考え
られる。