資産選択動機仮説(ポートフォリオ・ポリシー)
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IS-LMモデルを構築した時点で、貨幣需要は所得Yと名目利子率
に依存すると考えた。
つまり M/P=L(i,Y) である。
しかし「資産」は何も貨幣だけではない。土地や建物、株式や債
権、そのほかの財産など、様々である。
人々が諸資産(ポートフォリオ)のうちどれだけを貨幣で所有す
るかは、諸資産それぞれを保有する場合の収益率や危険率などによ
って決定される、、、という考えがある。
これを「資産選択動機仮説」と呼ぶ。
資産として考えた場合、現金や当座預金(M1と呼ぶ)は利子が
付かないから収益率の低い資産であり、特に「劣位資産」などと呼
ぶ。
M1は流動性は高いが、価値の貯蔵手段としては劣っている。
貨幣の定義がM1のみである場合、M1はリスクや収益率の観点
からは説明しにくいので、この仮説はあまり当てはまらない。
だが利子の付く預金やMMFなどのM2は、リスクや収益率によ
って増えたり減ったりするので、この仮説が説得力を持つ。
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取引動機仮説(トランザクション・ポリシー)
貨幣需要を説明するもう一つの仮説が、取引動機仮説である。
劣位資産である現金をなぜ人々が持つかと言えば、それは流動性
が高く取引に便利だからである、、、という考えである。
貨幣をたくさん手元に置いておくと、モノを買うときに一々銀行
に預金をおろしに行かなくても良い。だから貨幣を手元に置く。
これを説明する理論としては「現金管理に関するボーモル=トー
ビン・モデル」がある。
たとえばある人が一年間に使う貨幣量をYとする。
一年間に一度しか銀行に行かないとすると、その人はYだけ預金
をおろして手元に置いて生活をする。
この場合、平均保有貨幣量はY/2となり、失われる銀行利子は
i×Y/2となる。
次に年に二回均等間隔で銀行に行くとすると、一回の預金の引き
出し金額はY/2となり、平均保有貨幣量はY/4、失われる銀行
利子は、i×Y/4となる。
同様に年にN回均等間隔で銀行に行くとすると、一回の預金の引
き出し金額はY/N、平均保有貨幣量はY/2N、失われる銀行利
子は、i×Y/2Nとなる。
Nが大きくなればなるほど失われる銀行利子が小さくなるので、
人々は頻繁に銀行に行って当座の生活費だけおろすのが有利になる。
ところがその一方で、銀行に行って預金を引き出すにもコストが
かかってしまう。は手数料だとか交通費だとか機会費用だとか。
その費用を一回あたりFとすると、一年間のコストはFNとなる
から、銀行に行けば行くほどコストが増える。
よって一年間にN回銀行預金を引き落とす場合にかかるコストは、
i×Y/2N + FN
となり、これを最小にするNが一つ(場合によっては連続する二個)
決まることになる。
人々は合理的にこの最適なNを選ぶ、、、というのが、ボーモル
=トービン・モデルである。
ボーモル=トービン・モデルは現金管理についてのモデルである
が、これを少し拡張すると「流動性のある資産と収益性のある資産
の保有」についても説明をすることが可能になってくる。
これにより、貨幣需要関数M/P=L(i、Y)にミクロ的説明が
なされることになる。
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■準貨幣
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流動性は持つが収益性やリスクがない貨幣、そして流動性はあま
り持たないが収益性やリスクが大きな資産。
これらがハッキリ二つに分けられるのであれば話は簡単だが、残
念ながら両方の性質を持つモノが大きな影響力を持つようになり始
めた。
たとえば以前は当座預金には利子が付かなかった。
これは小切手の利用によって、その小切手を持ってきた者に対し
てすぐに金を支払うために、現金をリザーブしていたからであるが、
銀行サービス競争などによって近年は利子が付くようになった。
また以前は株式の売買や不動産の売買にはかなりのコストや時間
が必要であったが、近年はコンピュータや政府の規制緩和によって
瞬時に取引が行われることも珍しくなくなってきた。
これは流動性が低かった不動産さえも流動性を持つようになった
ということで、上記の二分法が定義することが難しくなったことを
示している。
これによって貨幣需要はより不安定になり、貨幣供給量のコント
ロールはかなり難しくなってしまった。
つまり従来の金融政策の三手段はもはや有効な政策とは言えず、
新たな手段が必要となってきたのである。
(おわり)