ブランド=アイデンティティ?

スポーツメーカーであるナイキは、なんと身にまとう物全てを、ナイキブランドにすることを提案した。

 

なのでもし顧客がスポーツグッズに機能と便益のみを求めているなら、時計にしてもオーディオにしても、何もナイキでなくとも良い。

 

ナイキの時計のもつ機能と便益は、時計メーカーと変わらない。

 

なにせ時計メーカーにナイキの時計を作らせて、その上に自社のデザインを乗せているだけであるのだから。

 

しかし時計メーカーの販売価格より、ナイキの時計は高く売れる。

 

帽子やキーホルダーなんて、ナイキのマークが付いただけで千円も二千円も高く付く。

 

だからその差はプロダクトの性能や便益の違いによるものではないことは明らかである。

 

しかし伝統的なマーケティングの概念では、「消費者はモノの善し悪しがハッキリ判断でき、それに従って良いモノを買う」という前提でモノを考えている。

 

消費者は少ない所得を様々な商品に分配してモノを買う。

 

自らの満足や効用(便益)を最大あるいは極大にしようとして金を払う。

 

だからこそ人々はモノ自体の善し悪しにシビアであり、他社の製品と殆ど変わらないナイキのグッズに高い金を支払うわけがないという所からスタートする。

 

ではなぜ人々はナイキのグッズに、他より高い代金を支払うのか?というと、「サーチング・コスト(良いモノを探す費用)」や「マッチング・コスト(自分の買いたいモノを見つける費用)」などというコストを、ブランド料として上乗せして支払うのだ。

 

ブランドとは、だから商品のアイデンティティを示し、その保証に対して人々はより余分なコストを支払うのだ、…という説明になり、1990年代にはブランドを確立することに、各企業のマーケティング担当者は躍起になった。

 



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ブランドとは、商品保証ではなく、楽しさを提供するもの

ところが消費者の求めているブランドとは、「ハズレではない保証」という消極的ななものではなく、もっと積極的でポジティブなモノであった。

 

ブランドが、商品の機能的特性と便益と、その保証やアイデンティティを示すだけのモノでしかなければ、日常生活を一つのブランド商品で揃えるということはあり得ない。

 

というのもブランドが意味するのが機能や商品保証であれば、靴は靴のブランド、帽子は帽子のブランド、そしてバッグはバッグのブランド…といった風に人々は、様々なブランド商品を購入して使用するはずである。

 

そうなると、帽子はグッチ、ワンピースはシャネル、バッグはバレンシアガ、靴はアシックスという風な、様々なメーカーの組み合わせになるはずだところがブランド商品を買う人々はそんなことはしない。

 

たいていは一種類のブランド商品で、つま先から頭のてっぺんまで揃えてしまう。

 

つまり人々は特定のブランドの商品を身にまとい、それを日常生活に組み入れることによって、明るい「体験」を得ることに対して大金を支払っていたのである。

 

なので現代において「ブランド」とは

「ブランド≠ID(アイデンティティ)」
であり
「ブランド=EX(エクスペリエンス)」
という風に理解されるようになったわけだ。


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